十年後の答え合わせ

あの日、葉琉の夢を心から応援したい気持ちと共にいずれ聴力をなくしてしまう自分は葉琉に相応しくない、とどこか劣等感のような感情を抱いて別れを告げたことに後悔はない。

少なくとも、私と別れたことで真面目で誠実な葉琉はより勉学に邁進できたと思う。

夢を追う葉琉の姿が私にはまぶしく魅力的だった。そしてなによりも葉琉のことが本当に大好きだったから。


人生には人の縁というものが存在していると思う。

そして出会いの縁と同時に別れの縁も存在していて、色々な縁が複雑に絡み合うことで人は出会いと別れを繰り返し、人生を歩んでいく。

そうした人生の中で、別れても本当に縁がある人ならば再び出会えると信じたい。もしそんなことが起こればそれは奇跡と呼べるモノであり、素敵なことだと思う。


(もう葉琉とは出会うことはないのだろうけど……)

あの淡い青春の日々と恋の別れを思い出せば、ちょっぴり切なくなるが、それ以上に葉琉への想いがちゃんと思い出になっていることを実感して私はどこか安堵する。

(あの日、葉琉はなんて言ったんだろう)

もう答え合わせをすることはできないが、葉琉にはどこかで笑っていて欲しい。

いま、私がこうして幸せなように。
貴方にも幸せでいて欲しい。


(葉琉ならきっと大丈夫)  


「まま、にこにこ……どうし…の?」

「ううん、なんでもないの」

私は桜大の頭をひと撫ですると、目的地の耳鼻科を目指した。