──今日は卒業式。

私にとって高校生活に終わりを告げるとともに彼との別れの日だ。私と恋人の葉琉(はる)は卒業証書を片手に、互いに沈んだ顔で河川敷に座っていた。

理由は昨日、私から切り出した別れ話のせいだ。


河原を正面に見て、右に座っているのが私で左が葉瑠。私が彼の左側に座ることはない。

何故なら私の右耳は生まれつき聞こえないからだ。

そして左耳は補聴器を付けているのだが、左耳の聴力も徐々に低下している。先日の定期検診では主治医からあと一年ほどで聴力はほぼ無くなると診断された。


「……菜緒(なお)、別れるってなんで?」

葉瑠の少し高めの穏やかな声が春風に乗って左耳から心地よく聞こえてくる。

私はもう何度もシュミレーションした答えを脳裏に浮かべてからゆっくりと唇を開いた。

「うん……春から葉瑠は北海道の医学部に行くでしょう? 私は地元の短大だし遠距離って……難しいと思う」

「なるべく実家にも帰るし、毎日菜緒に連絡する。会えなくても寂しい思いはなるべくさせないから」

葉瑠がそう言うと、私のわずかに震えている左手にそっと大きな手を重ねた。

その温かい手のひらに決意はすぐに揺らぎそうになる。