『それは〝堂々としている〟っていうんだよ』
「堂々……?」
『水野はカッコイイよ』
「!」
今まで自分の気持ちを素直に話すことは、自分にとってマイナスでしかなかった。何を言っても「さすが」とか「言うねぇ」とか「さすがサバ女」とか。だから自分の気持ちに蓋をしてきたんだ。涙だって、皆の前で見せないように。
だけど、自分の気持ちに素直になっていいんだ。それで良かったんだね。
「ありがとう佐々木くん。好きだよ」
ん?
呟いた言葉にハッとして、顔を上げる。涙で潤んだ視界の中に、佐々木くんは立っていた。私と同じくスマホを耳にあてたまま、じっとこちらを見ている。どうしたらいいか分からなくて、ただ私も、彼を見つめ返す。
だって私、今「好き」って言ったよね?
佐々木くん本人に言っちゃったよね?
「あ、あの、あの……っ!」
突然芽生えた気持ちに、自分自身が戸惑ってしまう。
確かに私はどんな佐々木くんもステキだと思うし、おばあちゃん思いなところもカッコイイと思うし、それに、
『水野』
「え?」
まるでアイロンをかけたみたいに、パリッとした声が鼓膜を揺する。私は熱を持ったままの顔を、戸惑いながらゆっくりと上げた。
『何も考えなくていい。何も考えなくていいから――
今から俺に、抱きしめられて』
「え!」
涙でぼやけた視界の向こうで、だんだんと佐々木くんが近づいてくる。大きくなってくる。まるで私の中で芽生えた気持ちと連動するように、徐々に存在感を増していく。そして、
「『水野』」
腕を引かれて、体が傾く。目に溜まった涙は、抱きしめられた衝撃で飛んで行った。クリアになった視界いっぱいに、嬉しそうに笑う佐々木くんの顔が写る。
そして――
「俺も水野が大好きだ」
【完】



