心とりかえっこ


「でも、もう大丈夫……なんだよね?」
「どうやら食べ物が喉に詰まっていたらしい。幸い救急車の到着が早くて、救助隊が吐き出させてくれたって。意識は戻ったけど、一応病院に行くって」
「それで……?」
「もう大丈夫らしいから帰るって、さっき電話があった」
「そっか。よかったぁ~……」
「心配かけてごめんね」

とっくに目からペットボトルを降ろしていた佐々木くんは、ボトルの中で揺れる水面を見つめる。

「ばあちゃんの意識がないって聞いて、俺どうすればいいか分からなくて。不安で怖くて、気づいたら水野がいる学校へ行っていた」
「そうだったんだ」
「もしもばあちゃんが最期なら水野に会わせてやりたいって思いもあったけど、それ以上に、あの恐怖に一人で耐えられなかった。誰かに縋っていないと、どうにかなりそうだったんだ」

急に連れ出してごめん――としおらしく謝る佐々木くん。その頭を、やんわりと撫でてみた。

初めはビックリして私を見た佐々木くんだけど、私が「いいよ」と許しの言葉をはくとフッと肩の力を抜く。その大きな背中が安らぎに満ちたように、ゆっくりとベンチの背もたれに寄りかかった。