要件を伝えるのみの電話だったらしい。電話はすぐに切られ、スマホが彼の手の中できつく握りしめられている。
こういう時、聞いてもいいのだろうか。話してくれるのを待つべきだろうか。
もう何度も心臓がキュウと音を立てて縮んでいる。生きた心地がしないというのは、きっとこういう事を言うんだろう。
するとガバッと、いきなり視界が閉ざされる。ビックリしたけど、温かな体温に触れて安心した。佐々木くんに抱きしめられているのだと、遅れて理解する。
「佐々木くん……?」
「ばあちゃん、生きてる。助かった」
「え、やったぁ!よかったぁっ」
私もギュッと佐々木くんを抱きしめる。すると再び、痛いほどの力で抱きしめ返された。
だけどそれが嬉しかった。だってこの強さは、佐々木くんのおばあちゃんへの愛の重さだと思うから。それだけ佐々木くんにとって大切な人がいるという事実が、私は嬉しいんだ。
泣きながら「良かった」と、何度も何度も繰り返した。
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その後、我に返った私たちは、道の往来で抱きしめ合っていることに気づいた。道行く人たちが、頬を染めて私たちの横を通っている。
私たちは磁石の同じ極同士みたく、サッと体を離した。そしてその場から逃げるように、目と鼻の先にある公園へ向かった。



