「私はサバ女じゃないし、佐々木くんは盗人じゃない。本当の私は泣き虫だし、本当の佐々木くんは不良だけど優しい心を持っている。私たちの見た目だけじゃなくて、中身も見てほしい。本当の私を見てほしい。私を知らないなら知ってほしい。言葉は噂を流すものじゃなくて、心を話すためのものだから」
私が言い終わったタイミングで、佐々木くんの電話が終わる。眉は下がり、唇をかみしめている。
私はそんな彼の手をギュッと握って、前へ引っ張った。
「行こう!」
「……っ」
すると佐々木くんは一度だけコクリと頷いて、廊下を走る。
教室の中で皆がどんな顔をしていたかは分からない。だけど私たちが離れた後、クラスからは何の声も聞こえなかった。静まり返っていた。その静けさがきっと私たちの明日を変えてくれる希望だと信じて、ひたむきに廊下を走る。
すると向かいから担任の先生が「落とし物入れ」の箱を持って歩いてきた。
「谷崎は教室にいたか?」というので頷くと、担任は安心したように教室を目指す。すれ違いざまにチラリと見えたのは、箱の中に入っている時計。あれは谷崎くんの時計だ!
よかった、私たちの誤解は解けそうだ。そう思うと、少しだけ肩の力が抜けた。だけど、いつの間にか追い越されていた佐々木くんの切羽詰まった後ろ姿を見て、再び体に力を入れる。下駄箱で靴を履き替える時間さえ、まどろっこしい。



