心とりかえっこ

「そう言えば佐々木、昨日体育の授業いなかったよな」
「更衣室から帰って来た時、教室にいたのは佐々木くんだけだったもんね」

私は昨日、体育の授業が終わるチャイムを聞いて「トイレに行って来る」と教室を出た。だけど近いトイレが清掃中だったから、遠いトイレに行ったのだ。事を終えて教室に戻って来た時は、クラスメイトがほとんどが帰って来ていた。もちろん近藤さんもいた。

彼女は私と目が合うと、露骨に避けた。私も私でなんて反応していいか分からないから、何も言わずに彼女の隣を横切る。大切にしたい物ほど壊れるのは一瞬だと感じながら。佐々木くんも、お母さんとの間にこんな感情を抱いていたのかと、そんなことを感じながら。

自分一人で味わうのはあまりにもツライ出来事だから、ついつい佐々木くんのことを一緒に連想してしまう。私の中で、彼の存在が心の支えになっている気がした。

だけど私がこんな事を思っていた時に、まさか谷崎くんの時計がなくなっていて、しかも佐々木くんが疑われていたなんて。

「でも佐々木くんはそんなことしない人って、谷崎も知っているじゃん?」
「よく二人で楽しそうに話しているし」

「でも佐々木は不良だぞ?」

その一言が決定打にでもなったかのように、反論していた女子は「そうだけど」と口を閉じる。佐々木くんの立場がどんどん脅かされている。

だけど、いるじゃないか。
佐々木くんの身の潔白を証明できる人物が。