「俺になんか謝らないでほしい。俺に傷つけられたなら、そっと距離を置いて、二度と近づかないで」
「……なんで、そんなこと言うの?」
「さぁ。分からない。でも強いて言えば、離れられる寂しさを知っているからかな」
「!」
それはお母さんのことを指しているのだろうか。お母さんから見はなされた瞬間、もしかして佐々木くんはかなり傷ついたんじゃないだろうか。それから殻に閉じこもり、心の内に誰も入れていない、とか。
その時、チラリと佐々木くんの横顔が見えた。彼のトレードマークである優しそうな顔を通りこして、泣きそうな顔に見える。ビックリした私は、思わず「あ」と声が出る。
「ハンカチあるよ?」
「……いらないよ。水野と違って俺は泣かない」
泣く理由もないし、と吐き捨てた言葉はただの強がりにしか聞こえなくなった。昨日不良の先輩をたった一人で倒した彼が、今は妙に小さく見える。



