「じゃあ水野も、俺を逮捕しないとね?」
「え」
「だって俺は悪者なんでしょ?」
「そう、だけど……」
佐々木くんが私を抱きしめているこの状況で、佐々木くんを抱きしめ返しちゃうと、それはハグだ。
「無理!」と言って、佐々木くんから無理やり体を離す。やっぱりからかっていただけの佐々木くんは、カラカラと楽しそうに笑った。
「なんか水野って飽きないね」
「私は、もう佐々木くんには懲り懲りだよ……」
「はは、だろうね」
そう笑った佐々木くんの瞳が、悲しい色に瞬いた……気がした。さっきおばあちゃんから聞いた話を思い出す。
そういえば佐々木くん、お母さんから見放されたんだっけ。じゃあ「懲り懲り」なんて言葉は良くなかったかな。私にとって悪意30くらいの言葉でも、佐々木くんにとっては悪意120くらいに聞こえたかもしれない。
改めて、「言葉を選ぶ」って難しい。一度でも言ってしまえば、取り返しのつかないことになるからだ。その人の背景にあるもの、その人の気持ち、全てを鑑みてピッタリな言葉を選ぶべきだ。そうすれば人は傷つかないし、傷つけられることもない。
……だけど、それって可能なんだろうか。
「常に全てを鑑みて言葉を発する」って、かなり難しいことだ。
かくいう私だって、さっき佐々木くんを120傷つけようとして「懲り懲り」と言ったわけじゃない(そうは言っても30くらいは気にしてもらいたかったけど)。
だけど想像するに、彼は30以上の傷を負ってしまった。私の言葉のせいで彼は傷ついたんだ。それなら、きちんと謝らないと。



