心とりかえっこ

「なに?泣きそうな顔をしてどうしたの」
「……別に。ただ寒いなって」
「ふーん。それなら温まる?」
「え?」

グイッと、急に腕を引かれた。何も警戒していなかった私はバランスを崩し、引かれるがまま佐々木くんの胸に倒れ込む。そして座っている佐々木くんの太ももの上に、自転車で二人乗りをするみたいに着地する。

「な、なな!」

思いもよらない事態に、寒いどころか体が沸騰するように熱くなる。逃げようと身じろぎすると「ダメ」と、佐々木くんが私の腰に腕を回した。

「脅迫した人を野放しには出来ないからね」
「佐々木くんは警察じゃないでしょ?」
「警察じゃないただの善人だって、悪人を捕まえることがあるじゃん。それだよ」
「じゃあ私にだって、佐々木くんを捕まえる権利がある」

佐々木くんは「え」と驚いて、拳一つ分くらい私から身を離す。

「俺、なんかしたっけ?」
「私の家族、ぴ助の命を軽んじた」
「ぴ助……」

しばらく考え込んだ後。合点が行った佐々木くんは「あぁ」と目を伏せた。

「水野が泣いた時か」
「っ!」

そうだ私、佐々木くんには泣き顔を見られているんだった。抱っこさせられるわ泣き顔を見られるわで、恥ずかしさが頂点に達する。

だけど視線を下げようとした時、佐々木くんが私の顔を覗き見た。