心とりかえっこ

「私からすると、優羽は目の中に入れても痛くないの。文句を言いながらも、毎日お弁当を食べて帰って来てくれるところもそう。私はね、そんな優しくて可愛い優羽が大好きなのよ」
「……そうですね」

優しい羽と書いて、優羽。以前、おばあちゃんから持たされたタオルを肌身離さず身につけていた彼のことを思い出す。優羽、優羽。うん、いい名前だ。

「このお弁当、私がお預かりしてもいいですか?」
「あら、でも……」

悪いわ、という言葉を飲み込んだおばあちゃん。だけど私が「責任を持って佐々木くんに渡します」と言うと、眉間のシワをゆっくりと伸ばした。

「それじゃあお願いしようかしら。あなた、お名前は?」
「水野と言います。水野が大切な物を預かっているから必ず学校に来るよう、佐々木くんにメールでお伝えください」
「あら、素敵ね」

私たちは、ふふと笑い合う。いかにも男の子のお弁当っぽい黒い包みを、私は至極丁寧に受け取った。

私が食べる物よりもずっしりしている。その重さはおばあちゃんから佐々木くんへの愛だろう。なんと心地よく、幸せな重さだ。

「それでは私はこれで。気をつけてお帰りくださいね」
「ありがとうね、水野さん」

私たちはお辞儀をしあって別れる。元いた渡り廊下に戻ると、なんと近藤さんが私の帰りを待っていてくれた。私が手にした黒い包身を見て「なにこれ?」と首を捻る。