心とりかえっこ

「でもね、いいのよ。優羽のことはよく分かっているから。あなたの様子から察するに、まだ優羽は登校していないのね」
「……はい」
「それなら余計に、このお弁当を預かって欲しいの。〝今日もしっかり食べるのよ〟って、優羽にメール入れとくわね」
「え、〝今日も〟ってことは毎日お弁当を作られているんですか?」
「そうなのよ」

おばあちゃんは目を細めて笑う。私は驚きのあまり、口が開いたままになった。

今日だけじゃなくて毎日?
お母さんじゃなくて、おばあちゃんがお弁当を作っているの?

おばあちゃんの曲がった腰を見ながら、思わず固まってしまう。そんな無礼な態度をした私を見ても、おばあちゃんはにこやかにほほ笑むだけ。

「優羽の親は、不良になったあの子を見限ってしまってね。でも名前の通り、優しい子なのよ。口は悪いけど年老いた私のことを心配してくれて〝寝とけ休んどけ〟って。あまりにも心配するものだから〝寝てるばかりも毒なのよ〟って言い返してやったの。その言い合いをしてから、私がお弁当を作るようになったわ。こうでもしないと体が訛るって言うと、すっかり何も言わなくなったわ」
「そんなことが……」

言葉は悪いけど、佐々木くんのお母さんは、佐々木くんのことを諦めてしまったのだろうか。そんなお母さんを見て、佐々木くんはなんて思ったんだろう。手を差し伸べてくれたおばあちゃんを、佐々木くんはなんて思っただろう。

「……」

言葉が出ない。
だけどおばあちゃんは頬を赤らめながら、孫である佐々木くんを褒めちぎった。