心とりかえっこ

教室を見ると、確かに男女ともに慌ただしく動いている。廊下では授業変更を告げる誰かの大きな声が響いていた。

私、あの声が聞こえなかったの?しかも聞こえなかった理由が、佐々木くんのことを考えていたから?

「!」

そこに気づいた瞬間、カッと熱が顔に集まるのを感じた。私ってば、昨日からどうかしている。

「水野さん?」
「あ、ごめん。ありがとう。急いで移動するね」
「うん、良ければ一緒に行こうよ」
「もちろん、嬉しい」

話しかけてくれたのは近藤さん。クラスで頼りになる学級委員だ。黒髪のボブが、可愛らしい彼女によく似合っている。

彼女は私と行けると知ると、何故かとても喜んでくれた。対して私もクラスの女子から「サバ女」と遠巻きに見られることが多いから、こうやってグイグイ来てくれるととても嬉しい。はやる気持ちを抑えながら体操着を掴む。

その時、ふと斜め前の席が目に入った。もしも佐々木くんが一限の途中で遅れて教室に来た時、混乱しないだろうか。一限目は漢文なのに誰もいないなんて、私だったら確実に焦る。

私は一旦体操着を机上に置き、教壇にあがる。そして白いチョークを手に取り「一限目は体育に変更」と、黒板のど真ん中に大きく書いた。また教室に残っている人たちが、そんな私を見て「さすが」という。

「サバサバ系女子ってやることなすことカッコイイわ」
「行動に迷いがないよね」

「……」