「だけど俺としては、あんな他人がした噂でわざわざ傷ついてあげる水野の方が信じられないよ。お人好しなの?」
「私だって、気にしないようにしたいよ」
だけど気にしてしまうのだから仕方ない。佐々木くんみたいに噂をシャットアウトできたら、どれほど人生が楽しいだろう。
すると俯いた私を見た佐々木くんが「ぶはっ」と吹き出した。眉間にシワを寄せて、クツクツと笑っている。
「本当、佐々木さんってサバ女とは程遠いよね。むしろ正反対過ぎて気持ちがいいよ」
「それ、私はどう受けとったらいいの?」
「褒め言葉だよ。優しいねって言ってる」
「……そうなんだ」
さっきの言葉って〝イコール優しい〟なんだ。佐々木くんの表現って独特だ。
「佐々木くんも見た目の優しそうな顔とは程遠いキャラだよね」
「俺?優しくない?」
「全く」
ズバッと言うと、また佐々木くんは吹き出した。
所々あいた廊下の窓。そこから入る風が、彼の黒色の髪をふわりと持ち上げる。前髪の下、そこにある佐々木くんの目は髪と同じ黒色。吸い込まれるような漆黒の瞳だ。
それは「でもね」と言った時、一段と黒色が濃くなった気がした。



