心とりかえっこ

「さっきの先輩たちは大丈夫なの?」
「あれくらいじゃどうにもならないよ。気絶させただけだし」

先生が来る前に、私たちは中庭から撤退した。だから先輩たちの様子が分からないけど、佐々木くんが言うには大丈夫らしい。

目の前でケンカを見た私は恐怖から体が震えてしまって、佐々木くんの「今のうちに逃げれば?」という言葉に頷くことが出来なかった。

見かねた佐々木くんが私の腕を握って「おいで」と、私を教室へ送ってくれることになった。佐々木くんも同じクラスだから、「送る」というよりは「二人して教室に帰っている」と言った方が正しい。

「おー、佐々木。今日は来たんだな」
「えらいでしょ?」
「出席日数ギリの奴が、いばんなや」
「手厳しいなぁ」

まだ昼休み中だから、廊下にはたくさんの生徒が居た。その中には私たちと同じクラスメイトもいて、佐々木くんを見つけると嬉しそうに声をかける。話しかけられて満更でもないのか、佐々木くんもニコニコだ。

こうやって見ると佐々木くんは不良ではなく、ただの高校一年生なんだけどな。といっても日光に反射するピアスが異彩を放つ度に、やはり彼は不良なのだと思い知るけれど。

佐々木くん観察をしていると、ふと噂話が聞こえた。さっき通り過ぎた教室の中からだ。

「見て、佐々木くんと水野さんが一緒にいるよ」
「サバサバ系女子と、超優しい系男子ね」
「あの二人って正反対だよね」