心とりかえっこ

「地面に倒れ込む準備は出来たか?」
「全然。かわりに綺麗にボコってやるから安心してね」
「ぬかせよ、一年が」

先輩たちが私から離れて、攻撃できる範囲まで佐々木くんへ近づく。三対一で不利なシチュエーションにも関わらず、佐々木くんは相変わらず笑っていた。

この人には「恐怖」がないんだろうか?もしも先輩たちにやられたらどうしようって、そんな「心配」はないんだろうか?

私は不思議に思いながら、次々に先輩を倒す佐々木くんを見つめる。さほど時間をかけず、彼は全員の先輩を「物理的に」静かにさせてしまった。

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「べつに送らなくいいのに」
「また変な奴ら絡まれたら嫌でしょ?」

「そうだけど」と口を尖らせる私の横で、ポケットに手を突っ込んだ佐々木くんがカラカラと笑う。窓から入る光が彼の整った顔に当たっている。

キラキラと輝いて見えるのは気のせいかな?さっき助けてもらったから、カッコよく見えるだけかも。あぁいうのを吊り橋効果っていうんだっけ?

チラチラと佐々木くんを盗み見る。すると何にも興味無さそうな佐々木くんの目が、やはり何にも興味無さそうにこちらへ向いた。あ、見ていたのがバレちゃった。誤魔化すように、急いで話題を探す。