春。
白凰学園の中庭には、今年も満開の白バラが咲いていた。
黒瀬華鈴は、生徒会室の窓からそれを見下ろしていた。
――あの戦いから3ヶ月。
祖父・黒瀬龍臣は意識が戻ることなく、昏睡状態のまま施設に収容された。
黒瀬グループの実権は、正式に華鈴へ移譲された。
そして彼女は、裏社会の浄化と再編を進めながら、
表の政財界にも静かにその影響力を広げていた。
「……最近、顔色いいですね、華鈴会長」
一条怜が笑いながら資料を渡す。
「食事も睡眠も、前よりちゃんと取るようになったからかしら。……あの人が、うるさいのよ」
「うるさいって、俺のことですか?」
ドアを開けて入ってきたのは、もちろん――蔭山前。
「……自覚があるなら、静かにしてなさい。前」
「はは、では静かに“おやつ”を差し入れに来ました」
差し出されたのは、華鈴の好きな和菓子と、小さな紅茶のセット。
「……ふふ。ありがとう。あとで“ちょっと”褒めてあげる」
そんなやりとりに、生徒会の面々は目を細める。
鳳条雅はわざとらしく咳払いしながら、「あーはいはい、惚気ですね」と茶化し、
水瀬美月は華鈴に心から謝罪し、いまでは雑務やメンタル面で皆を支える影の功労者となっていた。
風間樹は、華鈴の命を守るために開発した“専用AI護衛システム”の改良を続けている。
全員が、もう一度“信じること”を選んでいた。
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◆放課後、屋上にて
風が吹く中、華鈴は制服のまま柵の前に立っていた。
そこに、静かに前がやってくる。
「この景色、変わらないな」
「ええ。でも、私の中は……ずいぶん変わったわ」
「それでも、変わらないものもある」
「……何?」
「あなたが、俺にとって“すべて”だということ」
沈黙のあと、華鈴は小さく笑った。
「じゃあ、私も言っておくわ。“前がいない未来”なんて、私にはありえない」
目を閉じて、彼女はそっと手を伸ばす。
「誓って。これからもずっと、私の傍にいてくれるって」
前はその手を取り、真剣なまなざしで頷いた。
「はい。たとえ全世界を敵に回しても――あなたを守り抜きます。
それが、俺の唯一の生きる意味ですから」
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◆エピローグ:新しい未来
数年後、華鈴は政界へと歩み始めていた。
彼女が掲げたのは、“冷たい支配”ではなく、“強さを支える温かい秩序”。
その隣には、常に蔭山前がいた。
黒薔薇の女王はもう、独りではない。
彼女は世界に言い放つ。
「――私がこの国の“未来”を作る。
血ではなく、“信じる者たち”と共に」
そして、物語は幕を閉じる。
黒薔薇の物語は終わらない。
これは、始まりに過ぎない――
⸻
―完―
