絶対零度の王

卒業を迎えた春

華鈴は、生徒会長として、そして黒瀬グループ総帥として最後の仕事に追われていた。
国際的な“秩序会議”――各国の経済界、治安勢力、そして影のトップが一堂に会す“闇と光の狭間”の会議。

「海外マフィアとの協調。リスクが高すぎる」

「でも避けられない。私たちは、もう“引けない側”なのよ」

会場は、国境沿いにある機密施設。
最上級の警備を敷いたはずだった。だが――



◆作戦当日、深夜2:30

前兆は突然だった。
停電。警備回線の断絶。
そして、狙撃音。

「――ッ! 華鈴様!」

護衛たちが瞬時に対応するも、華鈴の肩をかすめて弾丸が通る。

(……これは、“私”を狙った一撃)

冷静な彼女も、瞬間的に理解した。

「施設外に“敵”がいる。これは、外部の刺客。おそらく……“あの一派”」

“影の王”と呼ばれる旧黒瀬派の残党、暁の牙(アカツキノキバ)。

華鈴が裏社会改革を進めたことで、最も利益を失った一派だった。



◆同時刻、別棟にいた前

「……あの音――ッ」

耳が、それを聞いた瞬間に体が動いていた。

華鈴のいる建物まで、わずか2分。
でも、彼女には1秒も遅れられない。

脳裏に浮かぶのは、あの時の彼女の背中。

“撃て”と命じられても、
“守れ”と命じられても、
彼女はいつも前を信じてくれていた。

なら今度は――
「俺が、あなたを守る番だ」



◆施設内・階段前

華鈴は、流血しながらも銃を構え、単身で刺客の侵入を食い止めていた。

「華鈴様ッ――!」

階段を駆け上がる前と、彼女の視線が交差する。

「……遅い」

「すみません、主」

銃撃が再開される。

だが前は、華鈴の体を抱きかかえるように庇いながら、間一髪の距離で反撃する。

「さすが、黒瀬の犬……か」

敵のリーダーが呟いたその瞬間、前の瞳が鋭く光る。

「違う。“黒瀬の女王の騎士”です」

パンッ――

最後の弾丸が、敵の額を正確に貫いた。



◆戦闘後・ヘリの中

前は、負傷した華鈴の手を握っていた。

「……無事で、よかった。俺……間に合って」

「……前。今日は、命令じゃないわ」

「え?」

「ありがとう。助けに来てくれて、うれしかった」

その言葉に、前は目を伏せ、小さく微笑む。

「あなたが生きてるなら、俺の命なんて、何度でも差し出します」

「……もう差し出さなくていい。これからは、**“一緒に生きる”**のよ」

華鈴が微笑んだとき、
彼女の肩の傷よりも、
前の胸の鼓動の方が強くなっていた。



エピローグ

後日。

華鈴は、前のために特別な“護衛免許”を発行した。
それは“私的かつ絶対的な同行許可証”。

「この意味、わかる?」

「“王の横に立つ、たった一人”」

「正解よ。……次の“戦場”にも、隣にいて」

「命令ではなく?」

「“誓い”よ。私からの」

前は膝をつき、華鈴の手の甲に口づけた。

「誓います。生涯、この命をもって、あなたの未来を守ります」