そしてあっという間に1週間が過ぎ、
約束の日が来た。
「ハナ?どうした?朝からソワソワして」
「ロイ…えっと…」
「便所なら早く行け」
「ばっバカ!!違うわよ!」
貴族界ではありえない冗談に顔を真っ赤にしてしまう。
そんな私の反応を面白がって、ロイはよく失礼な冗談を言ってくる。
そのたびに懲りずにあわてふためく私も悪いんだけど…
「き、今日、訓練所に妹と妹の婚約者が来るの」
「へぇ」
「…」
「家族に会うのに何を緊張してんだよ。」
「だって、私の見た目変わったし…
お嬢様らしさなんてないわ。
絶対不細工になってる…。」
メイク道具もないから、そばかすを隠すこともできない。
「ハハッ!そんなことかよ!
別にどうでもよくないか?」
「よくないわ!!」
珍しく大きい声を出した私を見て、ロイは目を丸くする。
「お前…もしかして…「ハナ?」
後ろから懐かしい声で呼び掛けられ、
私は反射で振り向いた。
「リン…ギル様…」
「ハナ!!」
リンは駆け寄って私に抱きついた。
2か月前ならその勢いにふらついていただろうに、
今は容易にリンの軽い身体を支えることができた。
「ハナっ…会いたかったわ!」
「私もよ、リン。元気にしていた?」
その顔を間近で見ると、化粧でクマを隠しているのがわかった。
それに痩せたかしら?
軽いと思ったのは私の筋力が上がったからというだけではないようだ。
「少し痩せたかしら?元気にしている?」
「ええ…
ハナはなんだか…とてもかっこよくなったわ!」
「ふふ…ありがとう!」
「ハナ様、お久しぶりです。」
「ギル様…お久しぶりです。」
ギル様は2ヶ月前と変わらない穏やかな笑顔を浮かべた。
「ハナ、今日は休んでいいぞ。家族との時間を楽しめ。」
ロイが気を利かせてそう声をかけてくれた。
「でも…」
「ハナ、こちらのお方は?」
「あ、ご紹介が遅れましたが、こちら私の上司のロイ・クリゾンテム卿です。
まもなく私の小隊長となられるお方です。」
ロイはいつもと変わらぬ様子で
「ロイと申します」
と言い、頭を下げた。
「クリゾンテム卿、はじめまして。
ハナの妹、セレスティーナ子爵家の次女、リンネット・セレスティーナと申します。」
リンの美しいカーテシーが披露される。
「こちらは私の婚約者…」
「ギルバート・フックと申します。」
ギル様が手を差し出したので、ロイはその手を握り返した。
数秒間、ロイはギル様の顔をまじまじと見つめ、
「よろしくお願いします」
と言って手を離した。
どうしたのかしら…
「もうすぐお昼ですし、クリゾンテム卿もご一緒に
ランチをいかがですか?」
ギル様の提案にリンが「いいですわね!」と屈託のない笑顔を浮かべる。
私とロイは目を見合わせた。
断れと言う合図ね。
「あいにくロイは忙しく…「もちろんです。どうぞロイとお呼びください。」
え!?来るの!?
再び私はロイと目を見合わせる。
ロイはいつも私をからかうときの笑みを浮かべた。
なに巧んでるのよ!?
「では参りましょう。ロイ様、ハナ様。」
いつも通りの堂々とした歩調でギル様たちについていくロイ。
私はため息をつき、仕方なくそのあとについていった。



