馬車に戻り、再び帰路についた。
記憶を取り戻してからずっとモヤモヤと考えていたこと…
この寄り道で決心がついた。
「私決めたわ。」
「何を?」
「…私、ずっとこの平和な時代に剣士が必要か悩んでいたの。
だけど…この事件を経験して、大切な人を守れる人でありたいと思った。
何もかもを壊す戦争を、恐れるのではなくて止められる人でありたいと思った。」
ロイは何も言わず耳を傾けてくれている。
「私、剣術科に進んで王国防衛軍の剣士になるわ。」
傍らにある愛剣を力強く握った。
「剣士科に行かないつもりだったのか?」
驚いたような口ぶりだ。
「ええ、淑女科か経営科に進級して、家の役に立つ予定で入学したもの。」
「ブハッ、ハナが淑女…!」
「し、失礼ね!」
「上級生の男を一撃で倒すくせに…っ」
「それは…」
たしかに、剣術大会ではちょっとやり過ぎたわ…
「決心したのはいいけど、パパとママの説得が大変だわ。
私は長女だから家を継がないといけないし、剣術大会のことも秘密にしていたから、剣を扱うなんて知られたら気絶しちゃうかも。」
「誘拐犯を回し蹴りで倒したりな。」
ロイはまだふざけている。
「しつこいわね!」
「ハハッ…」
ロイは一通り笑い終えると、私の頭にポンと手を置いた。
「安心しろ。
家のことはギルバートが婿にでも入りゃいいだろ。
貴族でもないんだし、合併したり外から跡継ぎを雇ったっていい。」
「あ…そういえばそうね…」
「お前は俺に嫁いでくればいい。」
「
っは!!?」
突然のことに反応が遅れてしまったけれど、今の言葉はプロボーズじゃ…!
ロイは一つずつ指を折りながら言葉を続ける。
「アシュリー嬢含め婚約者候補は全員断った。
家は兄貴が継ぐ。
両親も王国防衛軍に入隊となれば、剣を続けることを許してくれるだろう。
俺は王国防衛軍で軍長くらいに出世すれば、そこらの貴族と同じくらいの稼ぎになるはずだ。」
「そ、そんなすべてうまく行くはずが…!」
「うまく行くよ。」
ロイの不敵な笑顔は信じてしまう力がある。
「ハナは俺の隊の副長になってもらうから、せめてティボー先輩の2倍は強くなってくれ。」
「っ、ロイだって剣術大会でギリギリだったじゃない!」
「真剣なら負けねぇよ。
それにティボー先輩が部下にいるなんてスカッとするだろ?」
ティボー様には悪いけど、想像するとたしかにそうかもしれない。
きっとその頃には私がティボー様に感じるわだかまりも薄らいでいるだろう。
「フフ…そうかもね…」
私が笑みを浮かべると、ロイは頭に置いたままの手で優しく撫でた。
くすぐったいような恥ずかしいような気持ち良さ。
私はロイの肩に頭を預けた。
馬車はゆっくりと温かな空間を運んだ。



