二度目の人生でかつての戦友が私を溺愛する



急いで解読を行うと、それは剣の攻撃力と防御力を上げる魔術のようだった。
まさに求めていた物に魔術を刻む類いだ。
コロニスの最新技術が、アイダでは何百年も前に開発されていたのだ!
そのことに俺は興奮を隠せなかった。

「よし、早速試しましょう!」
「はい!」

2人で魔力を込めながら魔術書の通り古代語の魔術詞を紙に書いた。
これを剣の刃に這わせればいいらしい。

その時、ノックの音が鳴り
「リンネット様、ハナ様の出立です。」
と声をかけられた。

「試している時間もないみたいですわ。」
「きっとうまくいきます。」
「はい!行ってまいります!」
リンネットは胸の前で大切そうに紙を抱き、玄関の方へ走っていった。

俺は好奇心に従ってその場に残った。
ペーパーナイフを手に取り、自分のハンカチに軽く刃を当てる。
当然切れない。

ゴクリと唾を飲み深呼吸をする。
俺が魔術詞を書いた紙でナイフの刃を撫でた。

何か…変わったか?
魔術が発動するときの魔力の放出がなかったが…

俺は再びハンカチにペーパーナイフの刃を当てた。
「っ…」
切れない…!

力を入れてもハンカチの糸が歪むだけ。
普通のペーパーナイフと同じだ…!
失敗したのか…?

再び魔術書に目を通す。
魔術詞は間違っていない。
なぜ…

先ほどは読み飛ばした項目もじっくり読み込む。

「…そう言えば、対価は…?」

もう一度最初から最後まで魔術の説明を読む。
対価の説明が…ない。
魔術書で対価の説明書きがないなんてことあり得るのか…?

他のページもめくるが、どの魔術にも対価の説明がない。
他の本にも…
どういうことだ?

そのとき、最初に解読した魔術書の存在をふと思い出した。
禁書の中で一番新しい魔術書、と言っても200年前の大魔術師の著書のあとがき。
本の山からそれを引っ張り出した。

『魔術は価値を移動させるのみの現実的手段である。
祖先が生んだ魔術詞は難解であり、言葉が移ろう未来も使い続ける限り、時と共に享受できる価値はさらに高まるだろう。』

当初は読み飛ばしていたが、この文章…
アイダの魔術はそれを使えること自体が対価なのではないか?
そして時と共に強まっていく…
200年、いやそれより遥か昔からずっと…

俺は生唾を飲み込んだ。

アイダの魔術は世界の常識をひっくり返す。
それを知るのは他国とアイダの魔術両方を知るアイダの重鎮と俺だけだ。

しかし、何度やっても俺のハンカチが切れることはなかった。