二度目の人生でかつての戦友が私を溺愛する



ロイ教官の訓練は過酷を極めた。

怪我など日常茶飯事。
倒れるまで走り、昨日できた血豆がつぶれるまで剣を振り、何人もの隊員と模擬戦を繰り返す。

おかけで隊員同士の絆は深まったけれど、ロイはどこか畏敬の目を向けられている。
訓練が厳しいからというだけでなく、ロイはとにかく強かった。
一般階級の中でも田舎町の農家出身という身の上でありながら、小隊長を任されるほどの実力だ。

実家での最後の1週間
そこでお父様と交わした剣と同等の重みがロイの剣にはあった。


訓練所に来て2ヶ月がたつ頃には、私は模擬戦で負けなくなった。
お父様の言っていた私の剣才はお世辞ではなかったらしい。

「おーい、ハナ!早く来いよ。」
「今行く!」

訓練所の夜は毎日酒盛りだ。

社交界のパーティーでは、口下手な私は時間をつぶすためだけに片手にワイングラスを持っていたが、ここではジョッキにビール。
最初は驚いたけれど、仲良くなった仲間と飲むお酒は美味しいというのも、この訓練所での学びのひとつになった。

食堂へ向かい、手招きするロイのとなりに座る。

私の剣が上達するに連れ、ロイと模擬戦をすることが増えたからか、年が同じだからか、ロイとは一番仲良くなっていた。
上司というより友達だ。

「ハナ、また剣が早くなったな」
「ロイこそ重くなったよ」
「鍛えてるからな!」

腕まくりしてアピールする筋肉に、もはやロイのファンと化している隊員たちが歓声を上げる。

「マジでロイさんかっこいいっす!」
「ロイの小隊に割り当てられてよかったよ」
「そうだな、他の小隊では指導がほとんどないところもあるみたいだしな。」
「死人が出たところもあるらしい」
「もうすぐ開戦だからな、気が立ってるのかもしれない。」

「…」

私たちはあと1ヶ月で訪れる恐怖をお酒で、他愛ない会話で紛らわしている。

「ハナ、日焼けしたな。
最初は玉のような肌だったのによ。」

話しかけてきたのは訓練所で最初に案内してくれたテッド。
お父様と同じくらいの年で、最初の頃色々頼ってるうちに、今は可愛がってくれるようになった。

「そうね。それに傷だらけだし、もうお嬢様には戻れないわ。」
「ハハハ…俺の娘もハナくらいの年だ。
傷だらけでも真っ黒に日焼けしてても、父親からしたら世界一可愛い娘だよ。」
「うん…」
「ハナの父親はセレスティーナ大佐だろ?
俺たちの小隊が入る大隊の指揮官だ。」
「うん」
「会えるといいな。」

お父様は別れ際、「必ず会おう」とおっしゃった。
会えるだろうか。
強くなった私を見てほしい…。

「会えるさ。」

ロイがポンと私の頭をなでる。

「戦功を上げろ、ハナ。
それが戦地で一番早くお前の名を父親に届けられる。」
「戦功…」

お母様はおっしゃった、戦功などいらないから無事に帰ってと…
でも、戦功を上げ、無事に帰れば
みんなを喜ばせてあげられる。

「うん、私頑張るわ。ロイ」
「頼んだぜ相棒」

ロイと乾杯し、ビールの美味しさを噛み締める。

1週間後には、リンとギル様が王都に来る。
剣士となり、強くなり、仲間ができた。
私は2か月前の私と見た目も価値観も全然違う。

だけど、ギル様を想う恋心だけが変わらない。
なぜか色褪せない。

恋とはこんなにも強く深く心に刻み付けられるのね…。

私が訓練所に来て学んだもうひとつのこと。