二度目の人生でかつての戦友が私を溺愛する



「こちらです!」
キリ村が近づいたところで、アルウィンが村に入る手前の小道を指差した。

「え…」
アルウィンが指す方向は森の中だ。
「ハァハァ…本当か?」
汗だくのロイが訝しげに問いかける。
さすがのロイでも10キロもの道のりを人一人おぶって走ってかなりつらそうだ。
アルウィンが裏切るとは思えないけれど、いざというときは私が戦わないと…

「本当だ…」
「…行きましょう、ロイ」
とにかく早く私の剣を受け取って、リンを助けないと。

少し走ると、森の中に小さな小屋が現れた。
生活感はあるが、正直物置小屋と言われても信じてしまうくらいのサイズだ。
ロイはアルウィンを降ろすと、膝に手をついた。

「ロイ、大丈夫?」
「ハァハァ…ああ…すぐ落ち着く…」
「大丈夫よ、いざというときは私が戦うから。」
アルウィンが先に家に入っていったので、私とロイも警戒しながら後に続いた。

家の中もかなり質素で、必要最低限の物しかない。
「アルウィン…この家の様子は…?」
「私は…罪人なのです。」
「え…?」
寝室と思しき部屋に入り、唯一の箪笥をおもむろに開く。

心臓が力強く脈打つ。
ある。
あそこに…ある。

「あなたにお返しできる日をずっと夢見ていましたが…」

アルウィンが慎重に取り出した古い剣の柄頭にはエメラルドが埋め込まれていて、鞘にはセレスティーナの家紋が刻まれている。
紛れもなく私の剣ーー

「その夢は天国でしか叶わないと思っておりました。」

差し出された剣に吸い込まれるように手を伸ばすと、ロイがその手を掴んだ。
ハッとなりロイの顔を見ると、苦い表情を浮かべている。
アシュリー様が言っていた対価を気にしているのね。
この剣は私の命を吸っているかもしれない。
その魔術がいまだに残っているのかわからないけれど、ロイが心配してくれているのは伝わる。

「いいのよ…」
「…だが…」
私の腕を掴むロイの手を握り、それをほどく。

「ごめんね、でもいいの。リンの魔術なら…」
ロイは納得いかない様子だけど、しぶしぶ手を降ろした。

アルウィンから剣を受け取り、その重みを感じる。
私の…剣…。
戦場で手放したと思っていた私の誇り、家族の愛…
私は愛剣を力強く抱き締めた。

けれど、なんだか前世より重く感じる。
筋力のせいかと一瞬思ったが、魔術の効果が切れていることが直感で分かった。

鞘から剣を抜くと、白銀の輝きが溢れだした。
「錆びてない…磨いてくれていたの?」
アルウィンは「はい…」と頷いた。
「ありがとう」
私がそう言うと、アルウィンは目を見開いた。

「お嬢様は…なぜそんなにお優しいのですか?
私は先ほど罪人と申しました。なぜ詳しく聞こうとなさらないのですか?
こんな私を信じてお礼まで…」
アルウィンは震えながら項垂れている。

「私はあなたのリンへの忠誠心を信じているわ。」

アルウィンはバッと顔を上げ、涙が浮かぶ目で私を見上げた。

「必ずリンを無事にあなたと再会させてみせるから、待っていなさい。」
「っはい…!」

「ロイ…一緒に来てくれない?」
「当然だ」
ロイは笑顔を浮かべると、模擬刀を床に置いた。
私の肩をぎゅっと抱いてくれる。
「ありがとう」

自分の剣を抱き締め、模擬刀に触れた。
その瞬間、魔力が模擬刀を中心に拡がった。
転移魔法…!
「アルウィン、離れて!」
「どうか…どうかご無事で!」

必死に叫ぶアルウィンの顔は光で見えなくなり、再び目を開けたときには、私たちは知らない部屋に移動していた。