「ふざけたまねを!!」
ティボー様が力いっぱい机を叩いた。
その音が耳の中でぐわんぐわんと反響している。
「り…リン…」
指先が震える。
私を転生させたのはリンで、
ロイにとどめを刺すよう言ったのもリンで、
でも今世のリンは何も知らなくて、
魔術も使えなくて…
なのに…何をするかわからないセロン様に捕まっている。
「っ…ハァ…ハァッ…」
私は…どうしたら…
気道がどんどん狭くなっていく。
息が…吸えない…
バシッッ
背中に衝撃が走り、咳き込む。
振り向くと、ロイが手のひらを広げて見せた。
「っ…何を…!」
「お・ち・つ・け」
「…!」
「小難しいこと考えんな。今嫌なことはなんだ?」
嫌なこと…
「リンに傷ついてほしくない。」
「ああ」
「リンに前世を思い出してほしくない。」
「ああ、ならどうする?」
「リンを…助けるわ。」
「よし、じゃあ行くぞ。」
ロイは自信のある笑顔を私に向けた。
ついてこいではなくて、共に行こうと言ってくれるこの人が、私は大好きだわ。
深く呼吸することができ、私は自分の頬を両側から叩いた。
「ティボー様、キリ村の近くに転移座標はありませんか?」
「えっと…キリの隣町のベリオの病院に…
しかし再び転移を行えば魔力が底をつく。」
「十分です。そこからは走ります!」
「ハナお嬢様!リンネットお嬢様もこの時代に…?」
アルウィンが涙がにじむ目を向ける。
「言えていなくてごめんなさい。
記憶はないけどリンもまた私の妹として転生しているわ。」
アルウィンの瞳から涙があふれ、乾いた肌を湿らせる。
「あの子を助けるために手を貸して、アルウィン」
「…はっ!!」
アルウィンは敬礼を私に向けた。
「お願いします、ティボー様」
「わかった」
ティボー様を中心に魔力が拡がる。
「"転移 座標ベリオ中央病院"」
まぶしい光に目をつむり、開けたときには病院の裏口らしき場所に立っていた。
ティボー様は額に汗をにじませ、地面に片膝をついた。
「ティボー様!」
「ハァ…いい、行け!…キリは東に10キロだっ…」
「すみません…ありがとうございます。」
ロイはアルウィンをおぶると、「行くぞ」と言い、走り出した。
私もその後に続く。
リン、すぐに行くわ。
どうか…無事でいて…
速度を緩めることなく、アルウィンの家へ道のりを走った。



