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その瞬間、私は思わず立ち上がった。
「優勝!ロイ・フェルミナ殿!!」
アナウンスとともに会場が大歓声に包まれる。
剣士科3年生の首席を1年生が倒したのだ。
特に女子生徒の黄色い声がすさまじい。
ロイ!おめでとう!ありがとう…
1年生なのに…魔術を使えないのに…
ティボー様を倒してくれた。
「ハナ!ロイ勝っちゃったよ!?」
リンが興奮気味に私の身体を揺する。
「ええ!本当にすごいわ!」
「あ、ロイがこっち見てるわよ!」
「え?」
フィールドの方を見ると、ロイはこちらに向かい笑顔で手を振っていた。
この笑顔をずっと見ていたい…。
ああ…
そうか。
私は…
「30分後、表彰式を執り行います」
歓声にかき消されそうなアナウンスがそう伝えた。
「ハナ、ロイのところに行ってあげて。」
「え?」
リンは穏やかな笑顔を浮かべた。
「一番にハナにねぎらってほしいに決まってるもの。」
「……わかったわ。行ってくる!」
私も…一番に感謝を伝えたい!
階段でフィールドに降りると、選手の特権で通してくれた。
ロイのもとへ向かうと、興奮冷めやらぬ剣士科の先輩たちにロイは囲まれていた。
「どうやってティボー先輩の魔術を耐えたんだ?」
「普段どんなトレーニングを?」
人だかりに呑まれているロイと離れた位置で私はポツンと立ち尽くす。
今はしょうがないわ…。
優勝者だもの…。
…
しょうがないことだとわかってる。
わかってるけれど…今は無性にロイを独り占めしたい…
「ロイ…」
わがままな私は小さく小さくその名前を呼んだ。
「ハナ」
ハッとなり、顔を上げるとロイがいた。
「えっ…」
「ハナ、どうした?」
「っ…」
「怪我は?」
「大丈夫…」
言葉を出すのは恥ずかしくて、
いや…浅ましい考えを知られて嫌われるのが怖くて…
だけどせっかくそばに来てくれたロイを離したくなくて…
私はただロイの手首を掴むしかできなかった。
顔から火が出そうなほど熱いわ。
ロイは優しく、本当に優しく私の手を包むと、
「約束…守ってくれんのか?」
と尋ねた。
その声音には不安の色がにじんでいる。
こんなに強いのに…
私とのあんな冗談みたいな約束に心の底では怖がっている。
今ならその気持ちがわかる。
私にできることはしてあげたい。
ロイがくれた安心を、楽しさを、救いを…
一つずつでも返したい。
この人を…幸せにしたい…!
私はロイの手を力強く握り返し、大きく頷いた。
ロイはその手を引いて早歩きで歩き出した。
引き留める先輩方の声も観客席の黄色い声も置き去りにし、ただ私たちはお互いの手の温もりを感じていた。



