会場に入ると大きな歓声が響いていた。
同時進行で複数の試合が行われている。
すさまじい熱気に思わず剣を胸の前で握りしめた。
「こちらです。ロンドさん。」
「っはい!」
運営の方についていくと、約10m四方の正方形にテープが貼られたフィールドに案内された。
「女の子だぞ」
「しかも剣士科の指定服じゃない」
観客席がざわつくのを感じる。
やっぱり注目されるんだわ…
剣士科にはほとんど女性がいないと聞くもの…
恥ずかしい…
そのとき、
「ハナーー!頑張ってーー!」
ひときわ大きな声が私の名前を呼んだ。
声の方を見て思わず笑顔がこぼれる。
リンだわ。
近くにギル様やサラ、クラスのみんなも来てくれている。
一瞬感じた孤独はすぐに消し飛んだ。
対戦相手と思しき方が近づいてきて握手を求めた。
「よろしく。セロンが推薦した1年生だよな。」
「はい!よろしくお願いいたします。」
ティボー様が言った時にも違和感を感じたけれど、対戦前に握手をするなんて変ね…。
「ルールは聞いてるか?」
「い、いえ…」
「剣術科の模擬戦と同じなんだ。
急所には防具をつけて、突き攻撃はなし。
降参させるか、フィールド外に出すか、3本先制で剣での攻撃をいれたら勝ちだ。」
ルールを聞いて納得した。
握手と言い、安全を配慮したルールと言い、これは一種のスポーツなのね。
「わかりました。」
防具をつけて準備ができると、私と対戦相手の先輩は一定の距離をとって構えた。
「始め!」
審判の掛け声を合図に、相手は様子を見ながらにじり寄る。
やっぱり模擬刀は少し重いわ。
気を付けないと…
私が横薙ぎに切り込むと、
「グゥッ」
まさかのボディーにヒットしてしまった。
「え…?」
対戦相手は横腹を押さえ、地面に膝をつく。
う…嘘でしょ…
審判が声をかけ、少し会話を交わしたあと、首を横に振った。
「勝者、ハナ・ロンド!」
周囲がざわつく中、私は呆然と立ち尽くしていた。
防具に当たったし、切れてないわよね?
こんな攻撃で倒せるの…?
偶然?この方があまり強くないの?
周囲の試合を見てさらに驚く。
なんか攻撃が軽いわ…
あれでは剣が当たってもほとんど意味が…
「これが今の剣術のマジョリティだ。」
「ロイ!」
いつの間にか隣にロイが立っていた。
「試合終わったの?」
「ハナと一緒だ。瞬殺。」
「まさか一撃で倒せるなんて思ってなかったわ。」
「平和な国では剣はスポーツだ。
王国防衛軍のようなプロは別だろうが、当てれば勝てる競技で力いっぱい切りつける必要はない。」
「そうね…。なんだかすごく人間らしいわ。」
とても理性的な剣。
今はそれでいいと思う。
戦場での光景はまるで獣同士の争いだった。
「ただ、ティボー先輩には気ぃ抜くなよ。
戦争で戦ったコロニスの剣士は魔術道具を使ってただけだ。
ティボー先輩は本人が魔術を使ってくる。」
「うん、わかってる。」
私の中で闘志は静かに燃えていた。



