二度目の人生でかつての戦友が私を溺愛する



「すごい光景だな…」
ギル様のつぶやきに思わず頷く。

体育館の入口付近ですぐにロイを見つけることができた。
その理由は女子生徒でちょっとした人だかりができていたから。
改めてロイが女の子に大人気なことを思い出した。

「どうしましょう、今声をかけたらあそこにいる全女子がハナの対戦相手になってしまうわ。」
リンが含み笑いをしながらそう言った。

「可憐なご令嬢は難敵ね。」
私も笑いをこらえてそう返した。

「2人ともふざけてるな?」
「だって、ロイのあの表情…
模擬戦を10回連続でやった時より疲れてるわ。」
「ブッ…」
ギル様もたまらず吹き出す。

「仕方ない。俺が助けてやるか。
ハナとリンは選手控え室の方に行っててくれ。」
「うん」

体育館の横に設置されたいくつかのテントが選手控え室だ。
と言っても、上級生しか出場しないから、テントの中を使えるとは思っていない。
選手と関係者しかいないこの付近のベンチで少しゆっくりできればいいけれど…


「ハァ、疲れた…」

空いているベンチを見つけた頃、ギル様に連れられて疲弊したロイがやってきた。

「ロイ、おはよう。」
「朝からモテモテだったわね、伯爵令息様!」
「うっせ」

リンの嫌みを一蹴すると、ベンチの端にどっかり座った。

「俺とリンは観客席に行ってるよ。」
「ハナもロイも、くれぐれも怪我しないでね。」
「うん、ありがとう。頑張るわ。」
「またあとで。」

ギル様とリンは私たちに手を振ると、体育館の中へ入っていった。


「ロイ、聞いた?
今日は木剣でなく模擬刀だそうよ。」
「ああ、切れ味は鈍いが当たれば木剣より重傷になるな。」
「大きい怪我をしないように気を付けないとね。
リンたちに心配させちゃうわ。」

私がそう言ってロイの方を向くと、ロイは私から顔をそらした。

「ロイ?」
「ハナ…」
「ん?」
「今日…俺が勝ったら「ハナちゃん!」
「あ、セロン様…」

テントの中からセロン様が出てきて、こちらに駆け寄ってきた。

「おはよう、ハナちゃん!調子はどう?」
「おはようございます。
えっと…訓練で少しはましになったかと…」
「そうか、さすがだな。
フェルミナ、君はどう?魔術は覚えたか?」

ロイは座ったままセロン様を見上げた。

「ちょ、ロイ立ちなさいよ!」

ロイは渋々立ち上がると、今度は上からセロン様を見下ろすようににらんだ。
立たせるんじゃなかったわ…

「覚えてません。魔術が使えるかも分かりませんし。」
「…君は伯爵家だろ。十分…「フェルミナ家は文官として地位を確立してきた古参貴族だ。」

声がした方を見ると、もう1人テントから出てきた。

暗い茶髪と黒い瞳ーー整った顔立ちの方だわ。
だけどそれよりも…ロイより高い背丈、服の上からでも分かるほど鍛えた身体…。
この方は間違いなく強い。

「申し遅れた。私はティボー・ダンドリオン。
はじめまして、ロイ・フェルミナくん、ハナ・ロンドさん。」
「ティボー…様って、あなたが3年生首席の?」
「そうだ。」
「へぇ…」
ロイが値踏みするような視線を向けるので、慌ててひじで小突いた。

「セロンから聞いているよ。かなりの腕前だと。
君たちと共に剣術科で過ごせないのは残念だよ。」

ロイは差し出された手を素直に握り返した。
その手が私に向き、私も握ろうとした時ーー

「…ダンドリオン…?」

手が止まった。

どこかで聞き覚えが…それも、何か嫌な記憶…

「私の家のことが何か?」
「え…とんだ失礼を…えっと…」
どうしても手を握りたくない…。

しばらくしてティボー様は手を引っ込めた。

「なにか失礼をしたかな?レディ」
「とんでも…ございません…
あの、ダンドリオン様は貴族でいらっしゃいますか?」
「子爵家だ。
祖父が戦で大功を立て、貴族に取り立てられた。」
「っ大功とは…!?」

「ハナ…?」
ロイの問いかけに目線だけを向ける。
額の横に冷や汗が伝った。

ダンドリオン…
たしか、名前はジョエル。
平民の出、さらに成人前の若さにも関わらず、ジョエル・ダンドリオンは小隊を率い、アイダの中央隊を壊滅に追い込んだ…


「祖父は旧アイダ統一戦争で敵軍の中央大隊長を討ったんだ。」


私のお父様を殺した剣士ーー