二度目の人生でかつての戦友が私を溺愛する



2人でアシュリーのもとに向かい、
警察が用意した椅子に座るアシュリーにハナが頭を下げた。

「アシュリー様、本当にありがとうございました。
姉妹2人無事戻れるのも、あなた様のおかげです。」
「ハナ様、ご無事で本当によかったですわ。」
「…先日のパーティーでは失礼な態度をとってしまい、申し訳ありませんでした。」
「いいのです。私も無邪気なだけの行動ではありませんでしたから…」
「??」

アシュリーは大人っぽい笑みを浮かべた。

「これからはどうか心のままに行動されることをおすすめしますわ。
その方が後悔が少ないと思いますから。」
「ええ…覚えておきます。」
「では私は先に…「あの、少しお聞きしてもよろしいですか?」

アシュリーは再び椅子に腰を据えた。

「心のままにとお伝えしたばかりです。
何ですか?」
「アシュリー様は魔術科で大変優秀な成績でいらっしゃると伺いました。
旧アイダ国の魔術について、何かご存知ないでしょうか?」

アシュリーは値踏みするようにハナをじっと見つめる。

「旧アイダの魔術体系は大変難解で、国内でも専門家にしか解読できないものですわ。
その魔術を使用できる人間は、領土拡大戦争でいなくなったとされています。」
「そう…なんですか…」
「そのような難解な術式にも関わらず、コロニスの魔術の方が幅が広く、対価を軽くするくらいしか優位性がありません。」
俺が独自に調べた内容と同じだ。

「魔術科を志望するならコロニスの魔術を1つでも多く習得することをおすすめしますわ。」
「アハハ…善処いたします。」
ハナは苦笑いを浮かべてそう返事した。

「そう言えば、魔術師団のお兄様を持つクラスメイトが旧アイダの魔術では未来視ができたという噂話をしていましたね…」
「未来視!?」
「とは言っても都市伝説のようなものですわ。」

未来視…祈り文…
何かピースがつながる予感がする。

もし前世のリンが未来視を使えたとして、
戦争の結末を知っているのに、祈り文で叶わない再会を約束したら…
アイダの魔術体系なら、叶わない約束は強い対価にならないだろうか?
例えば4人を同時代に転生させるような…

俺の思考はハナの問いかけで一度途切れる。
「あと1つ…剣士の武器に攻撃力や防御力を半永久的に付加するような魔術は可能なのでしょうか?」
「そのような便利な魔術聞いたこともありません。」
「不可能なのですか?」
「…理論上不可能とは言いきれません。
対価が大きすぎて…実現性がないのですわ。
対価があっても、そのような大がかりな魔術を扱える魔術師が大国コロニスにあっても数えるほどしかいないでしょう。」

やはりな…
問題は対価だ。
魔術自体も難しいとなると、リンが前世で魔術師団に登用された歴史も頷ける。
いったい何を対価にした…?

「剣士がずっと身に付ける武器…
魔術による加護を付加し続ける…
もしかしたら…」
アシュリーが真剣に考え込んでいたかと思うと、みるみるうちに青ざめていった。

「アシュリー嬢?」
「え、"嬢"って…」
ハナが問いかけた時、衝撃的な言葉をアシュリーが呟いた。


「剣士の命を削ったら…」

「え…」

俺の額に冷たい汗が流れる。

「毎日命を吸えば、そのような加護も可能かもしれません。
まぁそれでは意味がありませんね。
生かすための加護ですのに。」

俺は何も言えずに固まっていた。

「…ええ、そうですわね。」

それだけ言ったハナは張り付いたような笑顔をただ浮かべていた。