ーー警察やハナたちの両親も到着し、無事事件は収束を迎えた。
俺とギルバートとアシュリーは、ハナたちの両親に何度も何度も頭を下げられた。
落ち着いてきた頃、ようやくハナに話しかけることができた。
「ハナ、無事か?」
「ええ」
ハナは何事もなかったかのように返事をした。
聞きたいことはいろいろあるけど…
「なぜ殺すなと?」
「…」
「お前の家から大金をとろうとした誘拐犯だぞ?」
「お金は大切ね。だけど幸い私の家はお金持ちだわ。」
「そういう問題か?」
「パパたちが一生懸命稼いだお金をこんな風に奪われてたら癪だけど、家族がすぐに飢えるわけじゃない。
私にとっては殺すほどの意味は感じられないの。」
金は昔からの争いの種なのに、ハナはさっぱりと言いきった。
「それにあの人たちには殺意がなかったもの。」
「…」
「殺意があったり、リンを傷つけていたら」
俺はゴクリと唾を飲んだ。
「私が殺していたわ。」
剣があろうとなかろうと、ハナは人並み以上に戦える。
でも、ハナは本来は争いを好まない優しい人間だ。
今回も無理やり逃げようと思えば逃げられたんだろう。
ただ、1人でリンを守りながら3人の男を相手するとなると、敵を再起不能にする必要がある。
できるだけ争わず…
だけど殺意を向けられれば殺意を返す。
ハナは…いや、俺たちは狂っている。
何百何千という殺意を受け、それ以上の殺意で同じ人間という生き物を殺す。
『生きる本能』なんて、言葉では当たり前のものを強烈に浴び続ける戦争…
その場所を経験した人間は、狂うしかない。
前世を思い出した瞬間から、俺もハナもあの戦争の記憶と共に生きている。
ハナの横顔を見ると、その視線の先にはギルバートとリンの姿があった。
2人は手を取り合っている。
ギルバートが贈ったアクセサリーをリンはつけていた。
そんな状況を見れば、ギルバートとリンが恋人同士になったことは明らかだった。
おかしな話だ。
とっくに狂っているのに、それでも人と寄り添いたいと願う。
それもまた人間の本能か…
なぜなら俺も2人を見つめるハナの横顔に恋い焦がれているからだ。
「…ねぇ、アシュリー様が魔術で私たちを見つけてくださったのよね。」
ハナの大きな瞳が俺に向いた。
「ああ、そうだ。」
「お礼をお伝えしないと…」
「今日…」
「え?」
「あ、いや…」
アシュリーとの婚約者候補の関係は解消したと、今伝えるのはなにかカッコ悪い気がした。



