二度目の人生でかつての戦友が私を溺愛する



「どういうことか説明しろ」

ギルバートを応接間に座らせ、ギリギリ冷静を保って尋ねた。
その場にはアシュリーも残っていた。

「目撃者の話によると、リンとハナが買い物に来ていたジュエリーショップに男が押し入り、2人を連れ去ったらしい。」
「っ、ハナは帯剣していなかったのか!?」
「お前はハナをなんだと思ってるんだ。
休日に令嬢が剣を持つわけないだろ。」
「チッ…」
平和ボケしやがって…

「続けると、ロンド家には身代金要求の手紙が投げ込まれたそうだ。
最初から2人を狙ったのか、たまたま居合わせた身なりのいい令嬢の誘拐に切り替えたのかわからない。
リンたちの両親が2人の知り合いに心当たりがないか、片っ端から連絡されていて、俺にも知らせが届いた。」
「2人が恨まれるようなことはないだろう。」
「ああ、俺もそう思う。」
「金の受け渡し場所は?」
「王都の路地裏に魔術陣を準備しているらしく、そこに金を置けば魔術で転移させるらしい。」
「手が込んでるな。」

それでは2人の居場所も犯人の居場所もわからない。

「魔術陣の逆探知なら3日もあればできますわ。」

アシュリーがそう言い、空気が変わった。
そうだ!アシュリーは魔術科で優秀な成績をおさめている。

「ではすぐに優秀な魔術師を集めれば…!」
「身代金の受け渡し期日は明日正午だ…。
それに、転移先にも二重三重に陣が張られている可能性もある。」

冷静なギルバートの考察に俺は舌打ちを打つ。

「クソッ…」
「では、もの探しの魔術はどうでしょうか…?」

アシュリーの提案に俺たちは食いつく。

「アシュリー様、もの探しとは?」
「人探しは難易度が高く難しいのですが、もの探しであれば先日授業で習いました。」
「人は探せないのですね…」
「しかし、今ハナ様かリンネット様が確実に身に付けているものがわかれば、成功するかもしれません。」
「条件は!?」

俺は立ち上がってアシュリーのもとに近寄る。
アシュリーはコクリと頷いた。

「被術者…今回はロイ様かギルバート様どちらかです…
被術者の持ち物であること。
その物の姿かたちが鮮明に浮かぶもの。
見つける代わりに同じくらい大切な被術者の持ち物が壊れること。
ですわ。」

俺の物で2人が持っているもの…?
すぐさま考えをめぐらすが思い付かない。

「ギルバートはどうだ?」
「…俺からのプレゼントとかでもいけるでしょうか?」
「そうね…もともとギルバート様の持ち物ですから、成立するかもしれません。」
「であれば、先日リンにイアリングを贈りました。
きっと今日もつけてくれているはずです。」

アクセサリーを贈った…?
そしてそれをリンがつけていることを確信している…。
2人はもしや…

「代わりに壊れるあなたの物は…?」

ギルバートはポケットから懐中時計を取り出した。

「祖母の形見です。」
「いいのか、ギルバート…」
「もちろんとても大切にしていたけれど、リンたちを無事に連れ帰るためなら構わない。」

アシュリーは再び頷くと、駆け足で自室に教本を取りに行き、すぐに戻ってきた。

アイダの魔術は紙を媒介とすることが多く、現代の日常生活では使われない古代語で魔術詞を書いていた。
一方、コロニスの魔術は先人たちが開発してきた魔術陣を踏襲して描くか、決まった魔術詞を唱えて発動させる。

"もの探しの魔術"は魔術陣形式の方らしい。
アシュリーが教本を手本に陣を書き上げた。

「準備はよろしいですね?」
「はい!」「頼む」
「では魔力を込めます」

アシュリーが陣に手をかざすと、目に見えない力の流れが生まれるのを感じた。

その瞬間ーー

パリンッッ

ギルバートの懐中時計は粉々にくだけ散った。
ギルバートは無表情でそれを見つめている。

「成功しました!
場所は王都近郊の町、サミの森近くの小屋のようです。」
「怪しいな。すぐ向かうぞ。」
「ロンド卿にも連絡する。」

電話や馬車の手配にそれぞれ俊敏に動き、すぐに出発の準備が整った。
腰には自分の馬車に置いていた真剣がある。

「よし、行こう。」

俺たち3人はアシュリーの探し当てた地に向け出発した。