パーティーが終わり、日常が戻ってきた。
ただ…

「おい、ハナ」
「なっ、な、何?」

ロイを過剰に意識してしまう。
それも仕方ない。あんなキス…

「何ボーッとしてんだよ。」
ロイが顔を近づける。

「っ、それ以上近づかないで!」
「俺はバイ菌かよ」
「…模擬戦でしょ。
準備していつものところに行くわ。」

焦る私の反応を見て、ロイは満足そうににやける。

「待ってる」


ロイの考えていることがわからない。
私を好きだと言ってくれる気持ちは本当なのかもしれないけど、態度がとにかくふてぶてしい。
相変わらず私をからかって楽しんでいる。
好きな女の子にこんな態度を取るものなの…?

運動着に着替え、中庭に向かおうとすると、
「ハナ」
「ギル様!」
ギル様に呼び止められた。

やっぱりギル様と話すときは心が踊る。
だけど…

「いつもの試合か?」
「ええ、そうよ」

以前とはなにか違う気がする…。

ギル様の隣には知らない男子生徒。
ボタンの色…2年生だわ。

「はじめまして、セロン・アルケットと申します。」
「ハナ・ロンドと申します。アルケット様、はじめまして。」
「どうぞセロンと。ハナ様とお呼びしても?」
「…ハナでいいですわ、セロン様。」

セロン様は笑みを浮かべると、
「じゃあハナちゃん。よろしく。」
今度はフランクに私の名前を呼んだ。

「セロン殿は2年生だけど、入学の時に声をかけていただいてから仲良くさせてもらっているんだ。」
「そうなんですね…」
それにしてもこの方の立ち振舞い…

「ハナちゃんは剣術科を目指してるの?」
「いえ…まだ決めていません…」

だけど、経営科も淑女科も、もちろん魔術科も、
興味があるとは言いがたい。
今世でもやはり私には剣だとわかっている。

「そうか。俺は剣術科なんだ。」
やっぱり…
佇まいからわかる、この方は剣士だと。

「1年生にずいぶん腕の立つカップルがいると聞いてね。」
「か!カップルではありませんわ!」
「え、そうなの?」
私はブンブンと首を縦に振る。
よりにもよって、ギル様の前でそんな噂…

「それは失礼。
とにかく、休み時間いつも打ち合いをしてるとギルバートに聞いて、是非拝見させていただきたいと思って声をかけた。」

関係はともあれ、剣術科の先輩に剣の腕で噂が届いているのは光栄だわ…

「その格好、今から打ち合いに行くのか?
ついていってもいいだろうか?」
「ええ…」
「ありがとう」

セロン様は人懐こい笑顔を浮かべた。
でも、その瞳の色は真剣そのものだった。