二度目の人生でかつての戦友が私を溺愛する



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「ハナ様、レッスン中失礼いたします。」
執事長が神妙な面持ちで声をかけてきた。

「どうかしたの?」
「子爵様がお呼びです。」

お父様が?珍しい…

「…行くわ。」

私がお父様の部屋に向かう途中、リンに会った。

「リン」
「ハナ!ハナもお父様に?」
「え…リンも?」

姉妹揃って呼び出されるなんて…
もしかして…

ギル様の顔が浮かび、ついにお父様が結婚相手を決められたのかと考える。
一気に熱くなった顔を、リンに気づかれないよう慌てて冷ました。

私たちも15歳だ。
婚約者を決め、セレスティーナ家のためにそれぞれどう役に立っていくべきなのか、そろそろ決断が下されるべき年齢だ。

期待と不安。

今日、私の恋心は終わりを向かえる可能性がある。
でも、ギル様との未来が確実なものになる可能性もある。

「私たちを揃って呼び出すなんて珍しいね。」
「え?あ…そ、そうね。」
「この夏の旅行の話かな?」

屈託なくそう言って笑うリンに少し驚く。

リンは察しないのかしら?
私が自意識過剰なだけ?

ドキドキしながらお父様の部屋の扉をノックした。

「入りなさい」

部屋に入ると、私の予感を確たるものにする光景。

そこにいたのはお父様、お母様、ギル様、ギル様のお父様…
そして私とリン。

やはり…ギル様の結婚相手が決まったのだわ。

さらに鼓動が早くなり苦しくなるのを
気づかれないよう呼吸に集中する。

「ハナ様、リンネット様。ご機嫌麗しく。」
ギル様のお父様とギル様が深く礼をする。

「ごきげんよう。フック卿、ギル様。」
「ごきげんよう。」
私とリンがカーテシーで挨拶を返した。

今はまだ貴族と一般階級。
私とリンの方が彼らより格上なのだ。

「今日は重要な話がありお集まりいただいた。」

父の軍人らしい芯の通る声に全員が注目する。
私はごくりと唾を飲んだ。

どうか…どうかお願い…!
ギル様の婚約者はハナとおっしゃって…!



「昨日、コロニス王国から宣戦布告が成された」



「へ?」

母とリンは口許を覆いショックを露にする。
フック様とギル様は苦い顔を浮かべている。


宣戦布告…?
戦争??

婚約者は…?


「無条件降伏をしない限り開戦は3ヶ月後。
陛下は戦う意思を示された。
コロニスは大国だ。大きな戦になる。
もちろん私も軍人として戦地に赴く。」

「そんな…!」
お母様が机に手をつき、リンがすぐに駆け寄った。

「…そして…っ」

お父様が珍しく言葉をつまらせ、私とリンを見た。
先ほどまで熱かった頬に冷たい汗の感触が伝う。

「…今朝、貴族家から少なくとも1人、軍人貴族家からは2人、戦地に出すよう王命が出た。
ノブレス・オブリージュを国民へ示すと…。」

軍人貴族家から2人…

母はがくがくと震え、その場に座り込んでしまった。
リンはこんな状況でも母を心配し、その肩を抱いている。

本当に天使のようだわ。
自分のことよりも他の人を優先して慈しむことができる。
客観的にそんなことを考えてしまうくらい、私は冷静さを失っているというのに…


「ハナ」


父の鋭い瞳が私を射貫く。

「はい…」

「お前は運動神経がよく、」
なによそれ…
そんなの貴族の令嬢には必要のない褒め言葉よ?

「護身術のレッスンで剣術に興味を持っていたと聞く」
それはお父様への尊敬から来る興味よ…

「どうか…」
お父様、私に頭を下げないで…

「セレスティーナ家の長子として共に戦ってくれないか。」


いや


いや!!


いやよ!!


「はい…」




言ってしまった。







父が私を強く抱き締める。
母は顔を手で覆い泣いている。
リンとギル様の顔は見られなかった。

「リンには希少な魔術の才能がある。
王都で魔術師として国の防護に力を貸してほしい。」

「は…はい…」
「ギルバート殿。
どうか婚約者として、そばでリンネットを支えてくれないだろうか。」
「はい。必ずやご期待に答えます。」







今…なんと…







そのあと、どのように振る舞ったのか
リンとギル様が言葉を交わしていたのか
何も覚えていない。


暗闇の中に放り込まれたような孤独に
私の心臓はつぶされそうだった。