ロイ、ギル様、リンを1週間避け続け、とうとうパーティーの日がやってきた。
ーー土曜日、夕方。
「ハナ、リンネット!世界一キレイだよ。」
「ええ、2人ともとってもドレスが似合ってるわ。」
「ありがとう」
「ありがとう、パパ!ママ!」
今世の私たちの両親のべた褒めに笑顔でお礼を返す。
父は商人だから、前世の父のような厳しい面はほとんどない。
母は貧しい家の出だけど、パワフルでキレイな人だ。
ただ、今世も愛にあふれた家庭であることは確かだ。
「リンネットはギルバートくんと一緒に行くんだったか?」
「うん!あとで馬車で迎えに来てくれるの。」
「そうか、じゃあハナのことは私が送ってもいいかい?」
「うん…ありがとう、パパ。」
リンたちのことをなんとも思ってないふりをして、
父の提案に頷く。
ギル様の馬車が着くのを待つことなく、私と父を乗せた馬車は出発した。
もしかしたら父は私の気持ちに気づいていて、気を利かせてくれているのかもしれない。
やっぱり私のパパだわ…。
無言で過ごす馬車の中はとても居心地がよかった。
穏やかな時間を過ごすうちに、馬車がゆっくり停車した。
パーティー会場である学園に着いたのだ。
「パパ、送ってくれてありがとう。」
「ここでいいのかい?」
「ええ。会場に行けばお友達がいるから。」
「そうか」
父は微笑むと私の頭をそっと撫でた。
「楽しんできなさい」
「ええ、ありがとう」
私は笑顔で返事をした。
パーティー会場に入り、周囲を見回す。
1つはクラスの友人を探すため。
もう1つはロイを探すため。もちろん会いたくないからだ。
逃げてばかりの私にロイは話しかけてこないかもしれないけど。
それにロイがフォンティーヌ子爵令嬢と一緒のところを見たら、私の中でこらえていた何かが崩れてしまう予感がする。
無事、初めての体育の授業以来仲良くしてくれてるサラを見つける。
私と同じ平民の女の子だ。
2人で歓談していると、ダンス曲の音合わせが響き始めた。
「ハナは踊る約束をしている方はいるの?」
「…いいえ」
「そしたら私と一緒に踊らない…?
ハナにはよく練習相手になってもらったから、成果を一番に見てほしいの。」
「ええ!ええ、もちろん!」
私は喜んで首を縦に振る。
私とサラは会場の真ん中で踊り始めた。
私たち以外にも女生徒同士で踊っている組はたくさんいた。
貴族の社交界とは違う自由さに私は好感を覚えた。
「あ、リンネットたちよ」
サラの目線の先を見ると、リンとギル様が踊っていた。
「そうね…」
前も見た光景だし、予想していたけれど、寂しい気持ちは変わらないのね…
ふと、2人の先に探していたもう1人を見つけた。
ロイ…!
心臓が大きく跳ね上がったけれど、ロイは男子生徒と話していて、周りに婚約者候補らしき女性はおらず、ひとまず鼓動は落ち着いていく。
「ロイ様ね」
「えっ」
サラに視線の先を気づかれてしまった。
恥ずかしい…。
「ハナはロイ様のことどう思ってるの?」
「どうって…友人よ。」
「恋愛感情はないの?」
「…ないわ。」
サラは大人びた笑顔を浮かべた。
「ハナはあまり感情を表に出さない方だけど、ロイ様といるときはありのままのあなたな気がするの。
そんな関係ってとても素敵。友人同士でもね。」
「ロイといるときの自分を私は好きじゃないの」
わがままで、臆病で、コントロールできない…
まるで子供。
前世であれほど悔やんだ子供じみた性格を、今世でもしっかり受け継いでいる。
それが私のありのままと言うなら、やっぱり私は自分のことが嫌いだ。
私はどうして転生したのかしら…。
何一つ成長できていない自分が情けない。
考え込む私を現実に引き戻すように
サラは大胆なステップを踏んだ。
「ハナが自分自身をどう思ってても、私は強くてまっすぐなハナに憧れてるよ。」
「サラ…」
「なんてね!」
サラは私に向かって照れくさそうにニッと笑った。
本当に優しい方だわ。
私に憧れ…
リンに憧れ続けている私が、人に憧れてもらえるなんて思ってもみなかった。
「ありがとう」
心の底からわき出た言葉だった。



