ーー前世の私とリンのデビューの日。
私のパートナーはギル様、リンのパートナーはお父様で、パーティー会場へ入った。
1曲目。
侯爵様のお好きなワルツ。
初めてギル様の手をとり、その力強く骨張った感触にドキドキしながら、夢のような時間を過ごした。
いつまでもこうしていたい。
次の曲も、その次も…
1曲目が終わり、私とギル様は顔を見合わせて笑った。
「ギル様、ありがとうございます。
とても楽しかったです!」
「私もです。とてもお上手でした。」
「ありがとうございます…。
あの…よろしければもう1曲いかがですか?」
私はかなり思いきって誘った。
2曲連続で踊るのは、婚約者の特権だ。
普段ならできなかったろうけど、ギル様のキレイだというお世辞を聞いてから、気持ちが大胆になっていた。
「…お誘いいただき恐縮ですが、一度リンネット様とも踊らせていただきます。
ハナ様のことは子爵様がお待ちです。」
振り向くと、お父様が遠くから手を振っていた。
「わかりました…。リンも一生懸命練習していましたから、いい思い出を作ってあげてください。」
「善処します」
2曲目が始まり、周囲が再び踊り始める。
「ハナ、私とも踊ってくれるか?」
「はい、もちろんです。お父様。」
笑顔を浮かべ、お父様の手を取った。
しかし、ダンス中もギル様とリンが気になってしまう。
どんなダンスを、どんな表情で?
人混みの中で2人を探す。
「!!」
見つけた…
そして後悔した。
探さなければよかったわ。
あんな楽しそうな2人を見るくらいなら…
ギル様の表情は私と踊ったときより柔らかで、リンを見つめる眼差しには愛がこもっていた。
そして、3曲目。
リンとギル様はそのまま踊り始めた。
「私は侯爵様にご挨拶に行ってくるよ。
リンはまだ踊っているようだし、あとで2人揃って来なさい。」
「はい…」
会場の隅へ行き、1人意味もなくワイングラスを傾ける。
笑顔があふれるダンスホールを見て、冷や汗が流れた。
孤独感ーー
初めて感じるその感情が胸の奥を痛め付けた。
ギル様はリンを選んだ。
私は選ばれなかった。
どうすれば選んでもらえるの?
着飾っても、学んでも、努力しても、
リンに追い付ける気がしなかった。
根本的に私には何か欠けているのかもしれない…。
ーー今世だって。
私が私である以上、欠けたまま。
私はまた逃げるように中庭の2人に背を向け歩き出した。
心臓が押し潰されそうな孤独感は和らぐことなく。
新入生歓迎パーティーは来週に迫っていた。



