お茶会をきっかけに私たち4人はよく一緒に過ごすようになった。
ギル様は別のクラスだけど、放課後に4人で集まって、お茶を飲んだり、ダンスの練習をした。
時々クラスの友人を誘ったり、ギル様のクラスの方も来てくれて、交友関係も広がっていった。
平和でありふれた学園生活…
前世では味わうことができなかった青春というものだ。
いや、小隊のみんなと過ごした訓練所での3ヶ月は私にとって青春だったのかもしれない。
あのときは気づかなかったけれど…。
昼休みにボーッと小隊のみんなを思い出していたとき、
「ハナ、行くぞ」
ロイに呼ばれた。
手には木剣。
「はいはい」
私も自分の木剣を手に取り、体育館へ向かった。
しばしば暇な時間はロイと模擬戦をするようになった。
模擬戦のときは黙っていてもいいから気楽だ。
余計なことを考えなくて済む。
「はぁ…はぁ…」
「遅いな。あと軽い。」
「っ…」
今世では一度もロイに勝てていない。
理由は明白だ。
速さという私の強みを活かすための筋力が足りない。
「そうは言っても、今はダンスの練習もあるし…」
「ダンスくらい前世でやっただろ」
「そうだけど!これ以上鍛えたら肩幅が広くなってドレスが似合わないの!!」
ホント、女心がぜんっぜんわかってない!!
「前も言ったが、ハナは今が一番キレイだ。
これからもな。」
「っ…そんなこと言われたかしら。
覚えてないわ。」
本当は覚えてる。
前世、レストランで言ってくれた言葉だ。
あのときは嬉しかったのに…
今はなぜか無性にイライラする…。
「そうか…」
「ちゃんと伝えてなかったからハッキリ言うわ。
私はギル様が好きなの。」
言ってから後悔した。
誰にも伝えず大事にしていた気持ちを、どうしてか八つ当たりのように言ってしまった。
私の大切な恋心を自分自身で汚した気分…
「…知ってるよ」
「…」
「それでもいい。
好きだ。」
ロイの澄んだ瞳を見ると苦しい。
私がひどくみじめに思える。
「っ…ロイには婚約する方がいるじゃない!」
ずっと思っていたことがついに口に出た。
言葉にして、さらにみじめな気持ちになり、いてもたってもいられず私は体育館を走り去った。
こんな自分イヤ!
頼れる姉でも、才能ある剣士でもない。
好きな人に振り向いてもらえなくて、大切な友人に八つ当たりする、みじめで…ひとりぼっちの人間。
「っ!」
中庭まで走り、呼吸が苦しくなり止まろうとしたとき、私は反射的に壁に身を隠した。
リンとギル様…
中庭のベンチで2人が並んで座っていた。
「リンもずいぶんダンスが上手くなったな。」
「ロイの教え方も上手だけど、ギル様との練習が実を結んだのよ!」
「ハハ…光栄だ。
…なぁ、リン。」
やめて…やめて…
「歓迎パーティーでは必須ではないけど、男女ペアで行ってもいいんだ。」
「え…」
「よかったら俺の…パートナーとして出席してくれないか?」
「ええ、喜んで!」
リンの輝くような笑顔は見なくても想像に易かった。
私は木剣をぎゅっと胸に抱いた。
とてつもない孤独感が身体中に広がる。
この感覚…覚えてる。
たしか前世でもーー



