とりあえず周りの女生徒がいなくなってから声をかけよう。
「おはよう、ハナ」
「っえ!?」
思いがけず、ロイの方から挨拶をされた。
絶対今顔が赤いわ…!
「お、おはよう。」
ロイは満足そうに笑顔を浮かべる。
同時に女子たちの視線がピリつくのを感じた。
私は気づかないふりをして下を向いた。
挨拶はあとでもいいじゃない!
クラスの女子から嫌われたらどうするのよ!
チャイムが鳴り、ロイを囲んでいた女生徒は各々の席に戻っていった。
先生が連絡事項を話す中、ロイが小さな声で話しかけてきた。
「女は怖いな。
挨拶しただけでハナをにらんでいた。」
「そうよ!お嬢様は特に、ね。」
「悪かったよ。ハナに会えて嬉しかったんだ。」
「っ…」
またそんな台詞を…
慣れるのよ!半分は私の反応を面白がっているんだから!
「それよりロイ!明日の放課後時間はない?
リンから例の4人でお茶をしようと誘われてるの。」
「ああ、いいぜ」
「転生の真実を探る好機だけれど、リンには間違いなく記憶がないわ。
純粋に私とロイの関係を発展させようと企んでるみたいだもの。」
「それは心強い。」
「っ、ふざけないで。
苦しまずに殺せる小刀を渡したり、自死を考えるような暗さは一切感じられないという意味よ。」
「じゃあ鍵は今世のリンでなく、前世のリンだ。
転生などという大それた現象を起こせる魔術は間違いなく大魔術だ。
お前も読んだ通り、リンは軍人貴族出身でありながら、コロニスの魔術師団に登用されるほどの腕だ。
リンが無関係と考える方が不自然だ。」
「客観的に見たらそうね…」
魔術のことは詳しくないけれど、やっぱり転生なんて普通じゃないわよね…
「魔術は…発動に対価を必要とする。
アイダでは古代文字による術式を使用し、対価を軽くしていたが、単純に考えると誰かのキズを治すために自分がそのキズを引き受ければいい。」
「そうなの…?知らなかった…」
「無理もない。当時のアイダでは解明されていなかった原理だ。
つまり、大切なものを守りたいなら、代わりの大切なものを壊せばいい。
大切な4人を同じ時代、同じ場所に転生させるにはどうしたらいいんだろうな。」
背筋に寒気が走る。
「リンには前世を思い出してほしくないわ…」
「…そうだな。」
私は机の下で拳を固く握りしめた。



