ーー翌週
緊張気味で学園の門をくぐる。
ロイと別れたあと、リンからは怒涛の質問攻めを食らった。
どこに行ったのか
ロイと付き合っているのか
ロイのことが好きなのか
リンが私たちの関係を探るのに夢中なお陰で、リンとの気まずさは薄らいだ。
心の底から恋愛話に興味津々な様子はやはり15歳の普通の女の子で、前世の記憶があるようには見えず、もちろん何か企みがあるようにも見えなかった。
「おはよう。ハナ、リン」
「ギル様!おはようございます。」
「おはよう!ギル様!」
校舎の玄関でギル様に声をかけられた。
朝一でギル様に会えるなんてラッキーだわ!
「ギ、ギル様!週末はどう過ごされたの?」
なんとか探した話題を投げかける。
「相変わらず父の手伝いだよ。
卒業したらすぐに家業を継ぎたいからね。」
「立派ね…」
「ギル様ってロイと仲良いのよね?」
リンの質問にギル様はキョトンとする。
この子ったら、ギル様にまでそんな質問を…
「まぁ…子供の頃からの付き合いだけど。」
「ロイはどんな方なの?」
「どうしてそんなことを聞くんだ?」
「えっ…」
リンは一瞬私に目を向けたが、すぐにそらした。
私のことを心配してロイがどんな人か探ろうとしてる?
それとも単純にロイのことを気にしてる…?
「な、なんとなくよ!
貴族の方だからどれくらいフランクに接していいのか悩んでるの。」
「それなら気にしなくていい。ロイは心が広いから。」
「そう…」
「…」
ギル様の表情が少し陰った。
リンが他の男性を気にしてることに動揺している。
どうして気付いてしまうのかしら…
そして懲りもせず私はまた胸を痛める。
「そうだわ!今度4人でお茶を飲まない?」
「…ああ、いいよ」
嬉しそうじゃないギル様の作り笑顔を、リンは無邪気に受け入れる。
「もし都合が良ければ明日の放課後はどう?」
「ああ、大丈夫だ。ロイには…ハナから声をかけてもらえるか?」
「へ…」
突然降ってきた気まずすぎる任務に間抜けな声を出してしまった。
でも、転生の真実を探る好機だわ。
気まずいなんて言ってられない。
「隣の席だよな?」
「ええ…わかったわ…」
ギル様と別れ、自分のクラスに入る。
私の隣の席には既にロイが座っているが、周囲を数名の女生徒が囲んでいた。
「ロイ、大人気ね…。
先日のハナとの剣術試合でさらに人気に火が付いた感じね。」
「そうなの…?」
そんなロイが私のことを好き?
信じられないけど、悪趣味な嘘をつく人でもない。
私の頬はまた熱くなった。
「じゃあハナ、ロイを誘うのよろしくね!」
「え…」
リンは楽しそうに笑っている。
もしかして私とロイをくっつけようとしてる?
ロイとお茶したがったり、人となりを聞いたり…
ロイを知りたがる行動も、それなら合点が行くわ。
行動はさておき、少女らしい無邪気さに私の心はほぐれる。
リンは絶対に前世の記憶がない。
少なくとも今は。
このまま思い出さなくていい。
あんな最期…
私は拳をぎゅっと握り、ロイのとなりの席に向かった。



