帰りは家の前までロイの馬車で送ってもらった。
「今日はありがとう。
えっと…これからもよろしく…」
「こちらこそ貴重な土曜日をありがとう。」
「…では、ごきげんよう」
その時玄関の扉が開き、
「ハナ…?」
リンが顔を出した。
「リン、ただいま。」
前世のリンの最期や小刀のこともあって、なんだか今は気まずいわ…
「おかえりなさい!って、ロイ?
ハナ、ロイとデートしてたの!?」
「デートでは…」
「リン、ごきげんよう。
ちょっとハナと2人にしてくれないか。
大事な話があって。」
「…わ、わかったわ…」
リンは仕方なさそうに玄関の扉を閉めた。
「ロイ、ありがとう…。
今はちょっとリンと話すのは気まずかった。」
「まぁ大事な話があるのは本当だしな。」
「え、何?」
ロイは私の前で片ひざをつき、私の手を優しくとって、その甲にキスをした。
私は金縛りにあったように立ったまま固まる。
前世のレストランの時と寸分たがわない仕草。
剣士の忠誠。
いつも上から私を見下ろしている瞳が下から私を見上げている。
熱を持つその瞳に私の心臓は鼓動を速める。
「っ何を…」
「一つ勘違いを正してもらいたい。」
「勘違い…?」
「先ほどハナは、俺がからかってお前を口説いていると言った。」
「ええ…」
「うぶなハナをからかって遊ぶのはたしかに楽しいが、」
「やっぱり…!「ただ俺は嘘はついていない。」
「…!」
顔が熱い。
鼓動はますます速くなる。
「俺が偽ったのは前世と今世通して一度だけだ。
祈り文に書いた願いだ。」
意外な言葉だったので慌てて頭を切り換える。
「たしか『戦争に勝ちたい』と…」
「ああ。それも心の底からの願いだったが、一番叶えたい願いの"手段"でしかなかった。」
「…?」
ロイは私の手を握る力をグッと強めた。
痛いくらいに…
「俺の願いは、ハナが幸せになることだ。
前世ではギルバートに託すつもりだったが、平和になり、地位も得た今世では俺でもその役を買える。
ハナ、前世からずっと俺はお前が好きだ。」
私は顔を真っ赤にし、口をパクパク動かすことしかできない。
「今世は、死に際に俺の名を呼ばせてみせる。」
ロイは悪巧みをするように笑うと、
「ではまた学園で」
と言い、颯爽と帰っていった。
しばらくしてから身体の緊張が解け、玄関にしゃがみこんだ。
「嘘でしょ…」
想像だにしていなかったロイの告白。
ロイが去ったあとも鼓動は早鐘を打ち続けている。
ただそれでも、ギル様への恋心は確かに私の真ん中にあり続けていた。



