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私の名前はハナ・セレスティーナ。
アイダ王国の子爵家の長女だった。
私には双子の妹がいた。
名前はリンネット・セレスティーナ。
人と話すのが苦手な私と対照的に、リンは愛嬌があり誰からも愛される存在だった。
貴族にとって、特に長子にとって重要な社交性を持ち合わせない情けない姉にも、リンは懐いてくれていて、私もリンのことが大好きだった。
父は戦功により爵位を得てのし上がった生粋の軍人。
母は若い頃その美しさと聡明さで貴族界でも有名だったという商家の長女。
成り上がりと言われることもあったけれど、厳しくも娘2人を心から愛する両親を私たちも愛していた。
そのときは気がつかなかったけれど、
絵に描いたような幸せで温かい家庭だった。
また、月に数回、セレスティーナ家を訪れる人がいた。
国内有数の商家であるフック家の長男ギルバート・フック。
将来、私とリンのどちらかと結婚する人。
リンに恋心を抱いている人。
リンも想いを寄せる人。
私の好きな人…。
子供のときから私の恋心は叶わないことが決まっていた。
それでも好きな気持ちは消えなくて、
"双子と言っても長女だからギル様と結婚できるのは私だろう"
"リンがどこかへ嫁いでいけばいつか私を好きになるかもしれない"
と、どこかたかをくくっていた。
その頃はまだ誰かのために自分の幸せを諦めるような大人な選択はできなかった。
そう、子供だった。
私はまだ15歳の子供だった。
諦めるなんて選択肢には目もくれず、自分の幸せを信じて疑わなかった。
そんな周りを省みない私の幼稚さにバチが当たったのだろうか。
あの日もギル様の妻の座を目指し、
マナーのレッスンを受けていた。



