ーーそんなことを思い出し、今回の彼の行動について考える。
心配してくれているのは確かなのだろうけど、心の底では別の思惑も何かあるはずだ。
だけど、ロイの優しさだけはどうしても疑えない。
歴史書のコーナーを一通り見終えると、私はため息を漏らした。
アイダ王国視点での歴史書がない。
どの本を読んでも、コロニスとしてどのように領土を広げたか、という視点で書かれている。
アイダの終焉は、コロニスにとって1つの勝利としてしか記されていない。
よく考えれば当然だ。
ここはコロニスで、アイダはもうない。
アイダに寄り添うような歴史書があれば、いらぬ反乱分子を生み出しかねない。
そんな簡単なことにも気がつかないなんて…
バカだわ。
私はとぼとぼとロイのもとへ戻った。
「お待たせ。付き合ってくれてありがとう。」
「探し物は見つかったのか?」
「いえ、でもいいの。」
「…」
「帰りましょう。」
図書室を出ようと歩き出したとき、
「王立図書館のVIPルーム」
そうロイがつぶやいた。
「え?」
「子爵家以上の関係者のみ入室が許された場所だ。
一般階級の市民には開示していない本もある。」
「どうしてそんな話を?」
「特別に案内してやろうか?
何か知りたがっているんだろ?」
「そうだけど、ロイになんのメリットもないでしょ?」
「今度の土曜日、スカートで王立図書館の前に集合。」
「一体なんなの?」
私が思わず苛立ちを露にすると、ロイは軽快に笑った。
「何って、ハナが聞いてきたんだろ。
俺のメリットだよ。
スカートのハナと休日に2人で会える。」
「えっ!!?」
予想だにしていなかったセリフに私は後ずさりする。
「では帰ろうか。」
ロイは当然のように私をエスコートしようと手を差し出したが、私はしきりに首を振って断った。
きっと今、顔が真っ赤だわ…。
男性の口説き文句に免疫なんてないもの!
「ご、ごきげんよう!」
私は精一杯それだけ言って、逃げるようにその場を立ち去った。
普通なら失礼と言える態度を、背後でロイはまた笑い飛ばしていた。
そう言えば、どうして思い付かなかったのか。
前世の記憶があるのが私だけとは限らない。
リン、ギル様、そしてロイ。
奇妙な再会を果たしたこの4人に記憶がある可能性は大いにある。
特にロイ…
いいわ。土曜日にロイの思惑も、記憶があるのかどうかも確かめてやる!
そして、前世の私の最期や4人の転生についての真実を突き止めてやるわ!
私は1人意気込んで、入学初日を終えた。



