保健室で休ませてもらったことで落ち着き、
私は完全に前世の記憶を取り戻した。
そうだわ、私は前世剣士だった。
今世の私の名前はハナ・ロンド。15歳。
貴族ではなく裕福な商家の長女…
王立学園に今日入学したばかりだ。
前世と同じ名前、同じ容姿で、
今日記憶まで思い出してしまった。
十分不思議だけれど、それだけじゃ終わらない。
私にはまた双子の妹がいた。
名前はリンネット・ロンド。
見た目も性格も前世のリンそのままだった。
そして、ギルバート・ウエストン。
彼もまた見た目も性格も前世と同じ。
それに…さっき、ロイがいたような気がする。
「ハナ、具合はどう?」
優しい声をかけられ、カーテンが引かれる。
「リン…もう大丈夫みたい。」
「よかった!入学式は終わってしまったけれど、
クラスでの顔合わせには間に合うよ。行こう!」
「ええ」
私が死んだあの瞬間…
意識はもうろうとしていたけれど、
たしかにあのナイフにはリンの魔力を感じた。
そのナイフでロイにとどめを刺された。
どういうことなの?
2人はなにかを企んでいた?
私を憎んで?
それとも…
4人が全く同じ姿で生きている今の状況に、なにか関係があるのだろうか…
「ここ…よね?」
1年生の教室に着くと、リンが不安そうに中を覗く。
私はひとまず暗い思考を忘れて、リンのとなりに立った。
中にはパリパリの制服を身にまとい、緊張した様子で談笑する生徒たちがいる。
王立学園は貴族と裕福な家の子供が15歳から3年間通うことができる教育機関だ。
そのため、生徒たちには上品さがあり、最低限のマナーと教育を身に付けている場合がほとんどだ。
私とリンも一般階級ではあるものの、十分な教育を受けてきた。
私は貴族としての前世の記憶も思い出したし…
ギル様も私たちロンド家と同じくらいの規模の商家の出だ。
クラスメイトの穏やかな様子に私はほっと胸を撫で下ろした。
アイダ暦162年ーー前世の私が死んだ年、
コロニス王国が戦争に勝利し、アイダ王国を統治下に治めた。
私が今いる王立学園も旧アイダ王国領にある。
当時のコロニス王は今でも名君と名高い。
終戦後、旧アイダ市民に対する非道な人種差別は行われず、国の一員として共に平和な時代を迎えることになったのもその理由の1つ。
今世、私は平和な時代に生まれ、戦争に負けたあとの歴史は、コロニスの歴史としてしか知らない。
アイダ王国が地図から消えて50年たつ。
私は知る必要がある。
命を懸けてアイダのために戦った剣士としてーー



