オオカミ男子の恩返し。

「あー気分悪い。なんだ、アイツら。ガキっぽすぎるだろ」
 教室を出て、茶道部の部室へと向かう廊下。
私と杏奈の少し後ろを歩く成瀬がそういって、私はジロリと成瀬を見あげる。
「あのくらいで大げさすぎ! クラスのみんなドン引きだったじゃん」
 私は目立ちたくないし、クラスは今まで通りふつうで平和であってほしいのに。
 それに、さ。
 せっかくみんなと仲良くなってたのに、あんなことしてほんと大丈夫だったのかな。
 成瀬のあとをゾロゾロついてきてたファンの人たちの姿もすっかり見えなくなったし。
 そんな私のモヤモヤした気持ちも知らず、成瀬はなーんにも気にしてない様子で……、ほんとムカつく。
「まぁまぁ。成瀬はなずなのために怒ってくれたんじゃん。私はスカッとしたよ。猪山と春日井、ちょっとデリカシーなさすぎって前から思ってたし」
 杏奈がそういってなだめようとしてくれるけど、私は大きく首を横に振る。
「あんなの、いわせておけばいいの! 別に猪山たちにどう思われても、関係ないし」
 そういうと、成瀬がじとっとした目で私を見おろす。
「な、なに?」
「……じゃあ、あんな顔すんな」
「え?」
「傷ついた顔してただろ? 見てられなかったんだよっ」
「べつに……」
 うそ。そんな顔してた?
 ぜんぜん気にしてないって顔してたつもりだったのに。
「なずな、どうしたんだよ。昔は、『曲がったことは大嫌い!」ってタイプで、あんな失礼なヤツら、謝るまでぜったい許さなかったのに」
 成瀬の言葉に、チクッと胸が痛む。
 そんなこと言われてもさ。
 昔の自分と今の自分を比べられるのって、イヤすぎる。
「そうだよ、私は変わったの! 10年も経ったら人は変わるの! がっかりしたでしょ? だからもう私のことは放っておいて」
 私がそういうと、成瀬は「やだね」と笑う。
「なんで」
「オレ、なずなのこと守れる男になるって言っただろ? だから、むしろ大歓迎。これからは、オレがなずなのこと全力で守る」
 事もなげに成瀬がそういって、杏奈が私に耳打ちしてくる。
「なずな、愛されてるぅ~」
「もう、やめてよ」
 コソコソ話す私たちの後ろで、成瀬が首と肩をぐりぐり回す。
「あーもう、ぜんっぜん茶道って気分じゃないんだけど! よし、サボってどこか泳ぎに行くか」
「えー♡ その話、くわしく聞きたい!」
「ちょっと杏奈! 部活サボるなんてダメ!」
「んもー、なずなは真面目なんだからぁ。中学生が部活サボるのなんて、ただの青春じゃーん」
「そんな青春いりませんっ!」
 そう。部活こそ、私の青春!
 そして、私の青春の真ん中にいるのは、ややこしい社長男子なんかじゃなくて。 
 いつでもだれにでも優しくて、穏やかで、知的で、優雅で……、
「あれ、なずなちゃん、どうしたの?」
 ふわっと、さわやかな風が吹いたような声。
「ゆ、雪平せんぱい……」
 頭の中で妄想していた人が急に目の前に現れて、妄想の中よりもステキなその笑顔に、私の胸はきゅーっとあまく締めつけられる。
 あーん、小田なずな、一生の不覚!
 成瀬とムダな会話してるうちに、部室の近くまで来ちゃってたみたい。
 今の、成瀬とのやりとり、素の私が出ちゃってたけど、先輩に聞かれてないよね!?
 先輩には、おだやかでやさしくてかわいい後輩だと思われたいのに!
「あれ、君は……」
 雪平先輩が成瀬に気づく。
「えっと、この子は、うちのクラスの転入生で、成瀬航海君です」
 杏奈がそう答えると、先輩はにっこり。
「そうなんだ。こんにちは、成瀬君」
 あああ、そんな、もったいない。
 先輩の美しすぎる笑顔を、こんなに向けるなんて!!
 その笑顔、国宝に指定して、美術館に展示するべきだと思います!!
 ほわわわ~ん、と、そんな妄想をしてにやける私。
 その横で、成瀬が「なるほど」とつぶやいて、それからにこりと笑った。
 なるほど? どういう意味?
 そう思ってると。成瀬が、
「こんにちは、雪平センパイ。さっそくですが、オレ、茶道部に入部します」
と、いった。
 先輩の目がキラッと光る。
「わぁ、そうなんだ! 大歓迎だよ。茶道の経験はある?」
「いえ、まったく」
「じゃあ、前から興味があって始めてみようと思ったとか?」
「いえ、茶道なんて一ミリも興味ないです。オレが興味あるのは、なずなと、雪平センパイだけなんで」
 くぅ~~~っ、ぜったいワザとだ。穏やかな茶道部の部室に波風たてまくり。
 目をぱちくりさせて、首をかしげる先輩。
「なずなちゃんと……、ボク? それってどういう……」
「な、なんでもないですっ! この子、ちょっと変わってるんで、真面目に話さなくて大丈夫です!」
 私、あわてて先輩と成瀬の間に割りこむ。
「なんだよ、『ちょっと変わってる』とは失礼な」
「事実でしょっ。っていうか、『ちょっと』ってつけたあげただけでもありがたく思ってよね!」
 私たちがごちゃごちゃもめていると、それを見ていた先輩が、「あぁ、なるほど」と納得したようにうなずく。
「そうか、2人は仲良しなんだね。さ、成瀬くん、入って入って」
 仲良し!?
 そんな、誤解ですぅ~~~~。
 ちょっと泣きそうになりながら、私はとにかく成瀬を部室に押しこむ。
 これ以上、先輩によけいなことしゃべらないようにしっかりガードしなきゃ!
 そう思って、部室の奥へ奥へと成瀬を追いやる。
 成瀬は「ここが部室か……。せまっ」と顔をしかめてる。
 まぁね、たしかにせまい。
 茶道部の部室は、扉をあけるとまず靴を脱ぐスペースがあって、そこから一段上がった板張りの小さな空間の左手に小さなキッチン。その奥のふすまを開けると畳の部屋があって、いちおうちゃんと床の間とか、「炉」っていう茶道に使うお湯を沸かすための畳の真ん中に開いた小さな穴とかもある。
 せまいけど、公立中学校にこんな茶道用の部屋があるのって、この辺りじゃウチの学校だけで、自慢の部室なんだ。
(さ、今日もがんばるぞ!)
 部屋の隅でヒマそうにしてる成瀬を横目に先輩たちを手伝いながら準備を進めていると。
「成瀬くん! ごめん、退屈だよね。こっちで先にお稽古始めようか」
と、雪平先輩が部室の反対の隅から声をかける。
「は?」
「成瀬君、茶道は初めてなんだよね。だから、しばらくはみんなとは別で、基礎からがんばろう」
「いや、なんでだよ。オレは別に基礎とかやりたくないし」
「だいじょうぶ」
 雪平先輩は、にこりとほほ笑む。
「キミならきっと、すぐにみんなといっしょに練習できるようになるよ。こちら、副部長の田中マリ。彼女からいろいろ教わってね」
「田中です、よろしく」
 ずずずいっとマリ先輩が成瀬に近づくと、成瀬がちょっとひるむ。
さすがマリ先輩。圧がすごい。
部長の雪平先輩が天使みたいにふわっとほわっと優雅系男子なら、副部長のマリ先輩は、そんな雪平先輩を支える武闘派女子。
小さいころから剣道をやってたからか、眼鏡越しのまなざしがりりしくて、意志が強くて、でも私たち後輩にはすごく優しくて……ほんとカッコイイんだ。
「まかせて、なずなちゃん。私がこの生意気な中二男子の根性叩き直してやるわ。茶道部に入部したいっていっときながら、茶道には興味ないなんて、バカにすんのもいいかげんにしろって話よ」
「マリせんぱいっっ♡♡♡」
 マリ先輩、さっきの会話聞いてたんだな。
 そして、私が成瀬に困ってることもお見通しなんだな。
 やっぱマリ先輩大好き!!
 私が目をハートにしている横で、杏奈がこそっと成瀬に耳打ちする。
「マリ先輩は厳しいよー。成瀬、だいじょうぶ? やめるなら今だよ!」
「ふっ。オレをそのへんのフツーの中学生といっしょにするな」
 髪をかきあげて決め顔を披露する成瀬に、私は「甘い!」と首を横に振る。
「いっとくけどね。マリ先輩は生身のイケメンに興味ないんだからっ。新選組のなんとかって人に本気で恋してるんだからっ」
「土方歳三ね。なずなちゃん、ウチの推し、日本史のテストにも出ることあるから、さすがにそろそろ覚えてね。……さ、成瀬くん、こっちに来なさい」
「えー……」
 イヤそうな顔の成瀬を軽々とひきずり、去っていくマリ先輩……ほんと、強い。
 準備が終わり、1人ずつお茶を点てる、といういつものお稽古が始まっても、ついマリ先輩&成瀬のほうが気になってチラチラと見てしまう。
「じゃあ成瀬くん、まずは、ここに座って……って、違うでしょ! 正座よ、正座っ!」
「えー、マジでいってる?」
「マジです」
「うちの親が、正座すると足が短くなるっていって、家庭の方針なんだけど」
「それなら、正座しなくていい部に入ってください」
「えー」
 不満げに、だけどちゃんと正座する成瀬。
「まずは、お茶の飲み方からね」
「お茶の飲み方……。そんなん、好きに飲んだらいいじゃないか」
 ボソッともらす成瀬を、ギロリとにらむマリ先輩。
「ん? なにかいった?」
「いえ、なにも」
「それならいいけど。じゃ、まずこうやっておじぎをして……」
 マキ先輩がそういいながら畳に手両手をつけたとき。
「はい、次は2年生。まずは……、なずなちゃん」
 と、さわやかな声が聞こえてきた。
「はっ、はいっ!!」
 急に雪平先輩に名前を呼ばれて、よそ見をしていた私はあわてる。
 しまった。真面目にお稽古してないって思われたらどうしよう。
 ちらり、と雪平先輩のほうを見ると、先輩がにこりとほほ笑んでくれる。
「釜の前に座ったところから、やってみて」
「はいっ!」
 よかった、先輩、よそ見してたことには気づいてないみたい。
 私は立ちあがって、部屋の隅で白い湯気を出している釜の前に座る。
 お茶を点てるのにお湯はかかせないけど、そのお湯を沸かす位置は、温かい時期はお客さんから遠い部屋のすみっこ。寒い時期はお客さんの近く、茶室の真ん中あたりって決まってて。
で、今は6月。先月からお湯を沸かす釜の場所は一番すみっこになって……お茶を点てるときの手順も少し変わるから、ややこしい。
(でも、しっかり復習してきたからだいじょうぶ)
 ふーっと息をはいて、私は釜の前に座る。
 ここで、茶碗にお湯とお茶を入れてシャーッと茶筅でまぜてお抹茶を作る……とは、いかないのよ、これが。
 袱紗っていうオレンジ色のトロンとした布をつまんだり畳んだり開いたり(袱紗さばきっていうんだ)、その袱紗でお茶の入った道具を拭いてみたり。
 お茶碗にお湯だけ入れて、茶筅っていう泡だて器みたいな道具をつけて先っぽが割れてないか確認したり、しゃかしゃかお湯を混ぜてみたり。そのあとお湯を捨てて、しっかり拭いて、ぜんぶ決まった場所に戻して……。
 やることも、道具を置く場所も、とにかく細かく決まっていて、一瞬たりとも気が抜けない。
 雪平先輩がじーっと見てるから、緊張もするし。
 でも、今日はなにもいわれないから、今のところちゃんとできてるっぽい。よしっ。
 で、ここまでやって、やっと、私の一番好きなとこ。
 ふーっと一息はいて、私は抹茶の粉が入った入れ物を左手で持ち、フタをあけて、茶杓(竹製の、細いスプーンみたいな抹茶の粉をすくうための道具だよ)で2杯分の抹茶を茶碗に入れる。
 それから、ひしゃくで釜の中のお湯をすくって、茶碗にお湯を入れ、残りは釜に戻す。
 コポコポコポ。水の音が響いて耳に気持ちいい。 
 ひしゃくを置いて、左手を茶碗に添えて、右手で茶筅を手に取る。
 シャカシャカシャカ。
 茶筅で素早くかき混ぜると、茶碗の中でお茶の粉とお湯が混ざりあって、深い緑色になって。それから、小さな泡がたくさん生まれて、お茶の表面を覆う。
(できた! いい感じ!)
 私は茶筅を置き、座っている向きを変えて、点てたばかりの抹茶を前に差しだす。
「なずなちゃん、すごい! 完璧じゃん!」
 3年生の先輩の一人がそういってほめてくれる。
「うんうん、なずなちゃん、よく覚えたね」
 雪平先輩もそういってほめてくれて、私は顔がにやけそうになるのをこらえる。 
 この前のお稽古の復習、ちゃんとしといてよかった!
「もうなにもいうことなし! って感じなんだけど……なずなちゃん、もう一回お茶を点ててみてくれる?」
「は、はい!」
 私がもう一度、茶碗を手にとって、お茶を点てる態勢をとると。
 ふわっ。
 背後からお香みたいないい香りがして、先輩の手が、茶筅を持つ私の手に添えられる。
(えええええええええええええっっ!?)
 私、心の中で大絶叫!
「すごく上手なんだけどね、もう少し手首をこうやって……」
 先輩がそうアドバイスしてくれるけど……、正直、なにいわれても頭に入ってこない!
(うわぁ。うわぁ。うわぁ)
 先輩の手が離れても、心臓がバクバクいってる。
「じゃあ、次、杏奈ちゃん」
「はい」
 杏奈の名前が呼ばれて、私は元いた場所に戻ろうと立ちあがって振りむくと。
 しら~~~~~。
 すっごく不服そうな顔の成瀬とばっちり目が合う。
(な、なによっ)
 口パクでそういうと、成瀬はそれに返事はしないで、マリ先輩のほうを見る。
「……先輩、今のアレ、アリですか?」
「逆にどこがナシだっていうの?」
「いわゆるボディタッチではないかと」
「正当な指導の範囲です」
「えー」
 まだまだ不満げな成瀬と、きっぱりと成瀬のクレームを切り捨てるマリ先輩。
「とにかく、はやくなずなちゃんといっしょにお稽古したかったら、真面目に練習しなさい」
 マリ先輩がそういって、成瀬はイヤそうな顔をして……、それからなにかを思いついたという顔をした。
「わかった。オレ、記憶力には自信があるんです。見て覚えますので、先輩、見本を見せてください」
 んもう。先輩に対して失礼すぎてドキドキするっ。
 マリ先輩は怒るかと思ったけど、成瀬の顔をじっと見たあと、「わかった。いいよ」といった。
 マリ先輩のデモンストレーション。
 前に置いた茶碗を右手で取って、左手に置き、右手でささえ、お茶を点ててくれた人への感謝の気持ちをこめてお茶碗を少し上にあげて止める。それから、お茶碗を時計回りに2回まわしてお茶碗に口をつけて飲み干す。今は、練習でお茶は入ってないから、飲むふり。
 で、飲み終わったら、親指を人差し指での飲んだところをふいて、ふいた指を懐紙っていう白い小さな紙で拭く。以上。
 すっと背筋が伸びて、指先にまで神経が行き届いた先輩の所作は美しくてうっとりしてしまう。 
「はいはい、わかった。じゃ、やります」
 軽くそういった成瀬は……、見事に先輩をマネした。完コピって感じ。
「すごっ。完璧じゃん」
 隣に座っている後輩の女の子が、思わず声をあげる。
「……完璧な動きです」
「オレ、一度見たもんは忘れないんで。じゃ、あっちに合流ってことで。あっちの動きも覚えたので」
「ちょーっと待った!!!」
 立ち上がろうとする成瀬の腕をマキ先輩がガシッとつかむ。
「私は『完璧な動き』っていっただけ。形をなぞるのもとても大事なんだけど、ぜんぜん心がこもってない!」
 マリ先輩の言葉に、成瀬は顔をしかめる。
「心がこもってるとか、こもってないとか。そういうの、そういうの、屁理屈っていうんじゃないですか」
 成瀬がそういい放って、部室がしんと静まりかえる。
 だって、ウチの部……というか、雪平先輩は、「心をこめる」ってことをすごく大事にしてて、後輩の私たちもそれをすごく素敵なことだと思っているから。
「……いいたいことはそれだけかしら」
 静かな声と表情で、マリ先輩がそういって成瀬の顔をじっと見つめる。
「そろそろね……。いいわ、成瀬くん。立ちあがって、なずなちゃんの隣に座って」
 マリ先輩の言葉に、「当然だ」とばかりに立ちあがろうとする成瀬……が、立てずに前に手をつく。
「くうっ。足のしびれがっ」
 うずくまって動けない成瀬に、マリ先輩が高笑い。
「ほーっほっほ! 茶道なめないでよね、入部したての部員がまず苦労するのが足のしびれなんだから! あっちのお稽古に合流? 100年早いわっ」
「くそっ」
「あらあら、このマリ先輩がマッサージしてあげようか?」
「いいっ! さわるなっっ!」
「遠慮しないでぇ~。あ、」
 ……マリ先輩、めっちゃ楽しそう。あの二人、なんだかんだいいコンビじゃない?
 そんなことを思っていると。
 雪平先輩がスッと立ちあがって、まだまだ足のしびれと戦う成瀬の前に座った。
「マリ。かわいい後輩にイジワルしないで。成瀬君。茶道ではどうしても正座する時間が長くなるけれど、足がしびれにくくなるコツみたいたものがあるんだ。少しおしりを浮かせて足を動かす、とかね。だから安心してね」
「いや、もういい。茶道なんて古臭いもの、やっぱりオレには向いていない。「お茶の飲みかた」とか、時間のムダにもほどがある」
 な、なんてことをっ! あわてて成瀬の口をふさぎに行こうとしたけど、雪平先輩はにこりと笑顔。
「成瀬君は、新しいものが好きなんだね」
 先輩の優しい目が、成瀬に向けられる。
「さっき、一年生の子に聞いたよ。中学生で起業するなんて、ほんとうにすごい。さすが、玩具メーカー創業者の孫は違う」
 ピクッ。成瀬の眉毛が動く。
「……それ、オレが起業できたのは、『じいちゃんの七光り』っていいたいの?」
「いやいや、まさか。ごめんね、ボクはいつもひとこと余計だっていわれるんだ」
 ずっと柔らかい雰囲気のままの雪平先輩と、怒りモードの成瀬。
 なんだか、先輩が赤い布をヒラヒラささせる闘牛士に見えてくる。
「茶道が『古臭い』っていうのは、成瀬くんの感想だからしかたない。でもね、なずなちゃんをはじめ、ウチの部員たちはその茶道に真剣に向き合っているんだ」
 先輩の目かキラリと光る。
「だれかが大切にしているものを、『つまらない』『古臭い』と切りすてるほうが、人としてとても『つまらない』と思うんだけど、君はどう思う?」
 成瀬は、ぐぐっとくやしそうな顔。
 そんな成瀬を見て、先輩はにっこり。
「ひとまず、仮入部ってことにしておこうね」