「この超かんたんな問題で13点……マジか」
6時間目が終わって、ホームルームの時間。
昨日の朝のホームルームでやった小テストが帰ってきたんだけど、それが20点満点中の13点で、それを見た成瀬が目をぱちくりさせて私を見る。
私は、「うるさいっ」と言いかえすのもめんどうで、「つかれたー」と机につっぷす。
(んもーーーーっ、ほんと、なんで私がこんな目に合わないといけないのっ)
今日一日、ほんとサイアクだった。
あの2時間目の数学のあと、3時間目の英語では、成瀬がアシスタントの外国人の先生とペラペラしゃべって、また女子たちがキャーキャー騒いで。隣にすわってる私にも先生が話しかけてくるけど何言ってるかほんとわからなくて愛想笑いでごまかしてクラスの失笑を買い。
次の体育のバスケでも成瀬は大活躍。バスケ部の男子たちにをドリブルでかわしてシュート何本も入れて、バスケ部の顧問でもある体育の先生に本気でバスケ部に入るように勧誘されて。成瀬がアッサリ断るから、先生が私に成瀬を説得するようにっていってきて断るの大変で。
給食の時間は成瀬が野菜は食べないとか言い出して、こっそり私のお皿に野菜を入れるし、掃除の時間は「なんで生徒が掃除をするのか。清掃のプロを雇ったほうがいいのでは」とか言いだして先生を困らせるし。
で、成瀬ファンはどこにでもゾロゾロついてきてウザいし、一部の過激派ファンにはニラまれるし。
んもーっ、ほんと、いいかげんにしてって感じ。
まぁでも、今日はあと部活だけだ。
そう思うと、一気に気持ちが軽くなる。
大好きな部活の時間。
「じゃ、私、部活あるから。バイバイ」
成瀬に背を向けて、そそくさと黒板消しをしている杏奈のところへ向かう。
「杏奈、日直おつかれ。手伝うよ」
「ううん、もう終わった。さ、部活行こー。あ、成瀬はどうするの? 部活」
え、と思って振りかえると、すぐ後ろに当たり前のように成瀬が立っている。
「ちょ、ちょっと! さすがに部活までついてこないよね? バスケ部に入りなって。先生喜ぶし」
私がそういうと、成瀬がつまらなそうな顔で首を振る。
「イヤだ。バスケは好きだけど、練習とかはしたくない」
きっぱり。
「いっとくけど、茶道部だってしっかりみっちり練習するんだよ?」
「わかってるけど、せっかくだからなずなと同じ部活で和気あいあい、楽しく活動したいじゃん。それに、茶道部の部長にはしっかりとあいさつしないと、な」
「え、部長って……」
「雪平理人、中三。茶道部部長。なずなの憧れの先輩だもんな」
にっこり。
「うげげげげ!」
成瀬の口から雪平先輩の名前が出て、思わず変な声が出ちゃう。
「すごっ。どうしてそんなことまで知ってるの?」
杏奈が目を丸くすると、成瀬が「調査会社を使って調べさせた」と事もなげにいう。
おいおい、たかだか中学生の恋愛事情を調査会社に依頼するとか、ほんとやりすぎ。
てか、くうう、私のトップシークレットをこんなヤツに知られるなんて!
「ちょっと、雪平先輩にはぜったいに変なこといわないでよ! わかった!?」
声を落として成瀬につめ寄ると、成瀬はフフッと笑う。
「変なことってどんなこと? あぁ、なずなが先輩のこと好きらしいですよ、とか? いや、さすがにいわない。信じろよぉ」
「くうっ」
なんだかぜんぜん信用できないっ。
「ねぇ、やっぱりさ、部活は違うのにしなよ。興味ないでしょ、茶道。それに、うちの部はけっこうみんな真剣に活動してるから、やる気ないのに入られるのは迷惑なんだけど」
私がそういうと、成瀬は「まぁまぁ」といつのまにか左手に持っていた紙袋の中から、灰色の包装紙に包まれた箱を取りだす。
「はい、これ」
「ん? なにこれ……って、あ!!!」
こ、これは……。
灰色の包装紙に書かれた白い文字を見て、私は息をのむ。
これは、宮城県の仙台市にある超有名な和菓子屋さんのとこの包装紙。
そしてこの成瀬のドヤ顔からして、中身は、名物の仙台いちご大福。
できたてじゃないとおいしさの保証ができないから、というお店の考えで、地方発送はなし、デパートへの出店もなし、仙台のお店に行かないと買えないという、和菓子好きなら一度は食べてみたい幻のお菓子!
ごくり。
つばを飲みこんだところで、成瀬が爽やかな声。
「朝から買いに行ってもらって、さっき届いたばっかりなんだ。これ、茶道部のみんなへの差しいれ。あ、なずなには家に持って帰る用に別で12個買っといたから」
思わず息を飲む。
さ、さすが社長、仕事ができるっ。
12個!?
いちご大福が12個なんて、そんな幸せ、ある?
いちご大福たちが、頭の中で踊りだす。
ほわわわわ~~~と妄想の世界に浸って、それからはっと現実に戻る。
してやったり、という顔の成瀬と、笑いをこらえてる様子の杏奈。
「なずなってば、ほんと単純。完全に餌付けされちゃってるじゃん。成瀬のほうが、一枚も二枚も上手だね」
はっ、そうだった。
くううううぅ、くやしい。
くやしいけどうれしい。
だって、こんなの反則だーっ。
私たちがわちゃわちゃしていると、それを近くで見ていたクラスメイトの男子が2人、近づいてくる。猪山と春日井。2人ともバスケ部の子だ。
「なぁー、頼むよ、成瀬。いっしょにバスケやろーぜ!」
「ほんと頼むっ。お前のこと説得してこいって、先生と先輩にいわれてさ。オレたちのこと助けると思って、な?」
「悪い。仕事もあるし、毎日練習があるような部活に入るのは無理なんだ」
「いいんだ、練習は来れるときだけで。朝練もでなくていから、頼むっ!!」
手を合わせて懇願する2人に、成瀬は「まいったな」というような表情を浮かべる。
んもー、もっとハッキリ断ればいいのに。まぁでも転校初日に男子同士で揉めたくないよね。
「……ちょっと。成瀬困ってるじゃん。ムリなこといわないでよ」
「うるせー、小野はだまってろ」
猪山がにらんでくる。
その後ろで、春日井が首をかしげる。
「なぁー、成瀬~。なんでそんなに小野がいいわけ? 小野ってべつにフツーじゃね?」
「だよな。成瀬って、ちょっと前までめちゃくちゃかわいい芸能人と付きあってたんだろ? さっき女子がいってた」
「あー……、それは、ただのウワサだから」
にっこり笑顔でかわす成瀬。
「でもさ、周りにかわいい女子いっぱいいるだろ? 成瀬の会社のCM、アイドルいっぱい出てんじゃん。それなのに、なんでよりによって小野なんだよ」
猪山の言葉に春日井もうんうんとうなずく。
「正直、うちの学校にだって、小野よりかわいい女子いっぱいいると思うけど」
春日井がそういったところで、杏奈がさっと私と春日井の間に割りこんでくる。
「ちょっと、猪山も春日井もほんとウザい。あっち行ってよ」
「とかいって、河西も思ってるだろ? 『大福みたいな顔の小野より、自分のほうがかわいい♡』って」
「はぁ!? 思ってないし!」
杏奈がキッと猪山をにらみつける。
「もういいよ、杏奈。早く部活行こ?」
これ以上、この話を続けるのは、正直キツイ。
私がかわいくないのは、私が一番わかってる。
人のこと、見た目で判断するのは浅はかなことだし、猪山と春日井にどう思われてたって、そんなのぜんぜん気にすることじゃない。私だって、猪山と春日井のことカッコイイとは1ミリも思わないからお互いさまだ。
ここはスルー。
言いかえしたりせずに、やり過ごすのが一番。
杏奈ににらまれた猪山と春日井が、舌打ちをして立ちさろうとしたその時。
「待て」
成瀬の右手が素早く猪山の手に伸びて、次の瞬間、猪山の背中が黒板に打ちつけられた。
「な、なにするんだよっ」
「なずなに謝れ」
低く響く成瀬の声。
「は?」
「今の言葉を取り消して謝れ」
「は? 別にオレまちがったこといってないし」
ドンッ。
猪山の言葉をさえぎるように、成瀬が黒板の猪山の顔スレスレの場所を力いっぱい叩く。
シンと静まり返る教室。
「中学生にもなって容姿イジリとか頭悪すぎなんだよ」
そういって、成瀬はぐいっと顔を猪山の顔に近づける。
「なずなを傷つけることはオレがぜったいに許さない。もしまたなずなを傷つけるようなことをしたら、そのときは……」
成瀬の口が猪山の耳元に近づいて、なにかをささやく。
さっと顔が青くなる猪山。
「そんなことっ、さすがのお前でもできないだろっ」
うわずった声でそういった猪山に、成瀬は心の底から軽蔑したような視線を向ける。
「知らないようだから教えてやる。金があればだいたいのことはなんとかなるんだよ」
そういいながら成瀬の手がスッと猪山の首筋をなでて、凍りつくような冷たい笑顔。
「ひっ」
「こ、コイツやばっ!」
成瀬の手を払いのけ、そそくさと逃げるように教室を出る猪山と春日井。
その背中を見送り、成瀬はこっちを見て、何事もなかったかのようににこりと笑う。
「さ、部活に行こうか」
いやいや、いやいや!
なんなのその目の奥ぜんぜん笑ってない系の笑顔!
みんなに愛想よくしてたかと思ったら急にブチ切れて。
本当の顔がよく見えない。
成瀬は……まるでオオカミだ。
あんなに可愛い、まるで子犬だったワタちゃんが、こんな狂暴なオオカミ男子に成長するなんて……。
いや、それとも子犬だと思ってたけど実は赤ちゃんオオカミだったのか……オオカミだって赤ちゃんの頃は可愛いだろうし。
わからない。わからないけど……。
とにかく、私の平穏な日常、カムバーーーーック!!!!
6時間目が終わって、ホームルームの時間。
昨日の朝のホームルームでやった小テストが帰ってきたんだけど、それが20点満点中の13点で、それを見た成瀬が目をぱちくりさせて私を見る。
私は、「うるさいっ」と言いかえすのもめんどうで、「つかれたー」と机につっぷす。
(んもーーーーっ、ほんと、なんで私がこんな目に合わないといけないのっ)
今日一日、ほんとサイアクだった。
あの2時間目の数学のあと、3時間目の英語では、成瀬がアシスタントの外国人の先生とペラペラしゃべって、また女子たちがキャーキャー騒いで。隣にすわってる私にも先生が話しかけてくるけど何言ってるかほんとわからなくて愛想笑いでごまかしてクラスの失笑を買い。
次の体育のバスケでも成瀬は大活躍。バスケ部の男子たちにをドリブルでかわしてシュート何本も入れて、バスケ部の顧問でもある体育の先生に本気でバスケ部に入るように勧誘されて。成瀬がアッサリ断るから、先生が私に成瀬を説得するようにっていってきて断るの大変で。
給食の時間は成瀬が野菜は食べないとか言い出して、こっそり私のお皿に野菜を入れるし、掃除の時間は「なんで生徒が掃除をするのか。清掃のプロを雇ったほうがいいのでは」とか言いだして先生を困らせるし。
で、成瀬ファンはどこにでもゾロゾロついてきてウザいし、一部の過激派ファンにはニラまれるし。
んもーっ、ほんと、いいかげんにしてって感じ。
まぁでも、今日はあと部活だけだ。
そう思うと、一気に気持ちが軽くなる。
大好きな部活の時間。
「じゃ、私、部活あるから。バイバイ」
成瀬に背を向けて、そそくさと黒板消しをしている杏奈のところへ向かう。
「杏奈、日直おつかれ。手伝うよ」
「ううん、もう終わった。さ、部活行こー。あ、成瀬はどうするの? 部活」
え、と思って振りかえると、すぐ後ろに当たり前のように成瀬が立っている。
「ちょ、ちょっと! さすがに部活までついてこないよね? バスケ部に入りなって。先生喜ぶし」
私がそういうと、成瀬がつまらなそうな顔で首を振る。
「イヤだ。バスケは好きだけど、練習とかはしたくない」
きっぱり。
「いっとくけど、茶道部だってしっかりみっちり練習するんだよ?」
「わかってるけど、せっかくだからなずなと同じ部活で和気あいあい、楽しく活動したいじゃん。それに、茶道部の部長にはしっかりとあいさつしないと、な」
「え、部長って……」
「雪平理人、中三。茶道部部長。なずなの憧れの先輩だもんな」
にっこり。
「うげげげげ!」
成瀬の口から雪平先輩の名前が出て、思わず変な声が出ちゃう。
「すごっ。どうしてそんなことまで知ってるの?」
杏奈が目を丸くすると、成瀬が「調査会社を使って調べさせた」と事もなげにいう。
おいおい、たかだか中学生の恋愛事情を調査会社に依頼するとか、ほんとやりすぎ。
てか、くうう、私のトップシークレットをこんなヤツに知られるなんて!
「ちょっと、雪平先輩にはぜったいに変なこといわないでよ! わかった!?」
声を落として成瀬につめ寄ると、成瀬はフフッと笑う。
「変なことってどんなこと? あぁ、なずなが先輩のこと好きらしいですよ、とか? いや、さすがにいわない。信じろよぉ」
「くうっ」
なんだかぜんぜん信用できないっ。
「ねぇ、やっぱりさ、部活は違うのにしなよ。興味ないでしょ、茶道。それに、うちの部はけっこうみんな真剣に活動してるから、やる気ないのに入られるのは迷惑なんだけど」
私がそういうと、成瀬は「まぁまぁ」といつのまにか左手に持っていた紙袋の中から、灰色の包装紙に包まれた箱を取りだす。
「はい、これ」
「ん? なにこれ……って、あ!!!」
こ、これは……。
灰色の包装紙に書かれた白い文字を見て、私は息をのむ。
これは、宮城県の仙台市にある超有名な和菓子屋さんのとこの包装紙。
そしてこの成瀬のドヤ顔からして、中身は、名物の仙台いちご大福。
できたてじゃないとおいしさの保証ができないから、というお店の考えで、地方発送はなし、デパートへの出店もなし、仙台のお店に行かないと買えないという、和菓子好きなら一度は食べてみたい幻のお菓子!
ごくり。
つばを飲みこんだところで、成瀬が爽やかな声。
「朝から買いに行ってもらって、さっき届いたばっかりなんだ。これ、茶道部のみんなへの差しいれ。あ、なずなには家に持って帰る用に別で12個買っといたから」
思わず息を飲む。
さ、さすが社長、仕事ができるっ。
12個!?
いちご大福が12個なんて、そんな幸せ、ある?
いちご大福たちが、頭の中で踊りだす。
ほわわわわ~~~と妄想の世界に浸って、それからはっと現実に戻る。
してやったり、という顔の成瀬と、笑いをこらえてる様子の杏奈。
「なずなってば、ほんと単純。完全に餌付けされちゃってるじゃん。成瀬のほうが、一枚も二枚も上手だね」
はっ、そうだった。
くううううぅ、くやしい。
くやしいけどうれしい。
だって、こんなの反則だーっ。
私たちがわちゃわちゃしていると、それを近くで見ていたクラスメイトの男子が2人、近づいてくる。猪山と春日井。2人ともバスケ部の子だ。
「なぁー、頼むよ、成瀬。いっしょにバスケやろーぜ!」
「ほんと頼むっ。お前のこと説得してこいって、先生と先輩にいわれてさ。オレたちのこと助けると思って、な?」
「悪い。仕事もあるし、毎日練習があるような部活に入るのは無理なんだ」
「いいんだ、練習は来れるときだけで。朝練もでなくていから、頼むっ!!」
手を合わせて懇願する2人に、成瀬は「まいったな」というような表情を浮かべる。
んもー、もっとハッキリ断ればいいのに。まぁでも転校初日に男子同士で揉めたくないよね。
「……ちょっと。成瀬困ってるじゃん。ムリなこといわないでよ」
「うるせー、小野はだまってろ」
猪山がにらんでくる。
その後ろで、春日井が首をかしげる。
「なぁー、成瀬~。なんでそんなに小野がいいわけ? 小野ってべつにフツーじゃね?」
「だよな。成瀬って、ちょっと前までめちゃくちゃかわいい芸能人と付きあってたんだろ? さっき女子がいってた」
「あー……、それは、ただのウワサだから」
にっこり笑顔でかわす成瀬。
「でもさ、周りにかわいい女子いっぱいいるだろ? 成瀬の会社のCM、アイドルいっぱい出てんじゃん。それなのに、なんでよりによって小野なんだよ」
猪山の言葉に春日井もうんうんとうなずく。
「正直、うちの学校にだって、小野よりかわいい女子いっぱいいると思うけど」
春日井がそういったところで、杏奈がさっと私と春日井の間に割りこんでくる。
「ちょっと、猪山も春日井もほんとウザい。あっち行ってよ」
「とかいって、河西も思ってるだろ? 『大福みたいな顔の小野より、自分のほうがかわいい♡』って」
「はぁ!? 思ってないし!」
杏奈がキッと猪山をにらみつける。
「もういいよ、杏奈。早く部活行こ?」
これ以上、この話を続けるのは、正直キツイ。
私がかわいくないのは、私が一番わかってる。
人のこと、見た目で判断するのは浅はかなことだし、猪山と春日井にどう思われてたって、そんなのぜんぜん気にすることじゃない。私だって、猪山と春日井のことカッコイイとは1ミリも思わないからお互いさまだ。
ここはスルー。
言いかえしたりせずに、やり過ごすのが一番。
杏奈ににらまれた猪山と春日井が、舌打ちをして立ちさろうとしたその時。
「待て」
成瀬の右手が素早く猪山の手に伸びて、次の瞬間、猪山の背中が黒板に打ちつけられた。
「な、なにするんだよっ」
「なずなに謝れ」
低く響く成瀬の声。
「は?」
「今の言葉を取り消して謝れ」
「は? 別にオレまちがったこといってないし」
ドンッ。
猪山の言葉をさえぎるように、成瀬が黒板の猪山の顔スレスレの場所を力いっぱい叩く。
シンと静まり返る教室。
「中学生にもなって容姿イジリとか頭悪すぎなんだよ」
そういって、成瀬はぐいっと顔を猪山の顔に近づける。
「なずなを傷つけることはオレがぜったいに許さない。もしまたなずなを傷つけるようなことをしたら、そのときは……」
成瀬の口が猪山の耳元に近づいて、なにかをささやく。
さっと顔が青くなる猪山。
「そんなことっ、さすがのお前でもできないだろっ」
うわずった声でそういった猪山に、成瀬は心の底から軽蔑したような視線を向ける。
「知らないようだから教えてやる。金があればだいたいのことはなんとかなるんだよ」
そういいながら成瀬の手がスッと猪山の首筋をなでて、凍りつくような冷たい笑顔。
「ひっ」
「こ、コイツやばっ!」
成瀬の手を払いのけ、そそくさと逃げるように教室を出る猪山と春日井。
その背中を見送り、成瀬はこっちを見て、何事もなかったかのようににこりと笑う。
「さ、部活に行こうか」
いやいや、いやいや!
なんなのその目の奥ぜんぜん笑ってない系の笑顔!
みんなに愛想よくしてたかと思ったら急にブチ切れて。
本当の顔がよく見えない。
成瀬は……まるでオオカミだ。
あんなに可愛い、まるで子犬だったワタちゃんが、こんな狂暴なオオカミ男子に成長するなんて……。
いや、それとも子犬だと思ってたけど実は赤ちゃんオオカミだったのか……オオカミだって赤ちゃんの頃は可愛いだろうし。
わからない。わからないけど……。
とにかく、私の平穏な日常、カムバーーーーック!!!!

