○廊下
男子生徒が散らばった書類を集めてくれ、拾い上げた最後の1枚をレイナに手渡す。

男子生徒「はい、これで全部かな。」

レイナ「ありがとうございます!」

レイナの顔をじっと見る男子生徒。
整った生徒顔に、レイナは思わず目をそらす。

男子生徒は何か思い出したようにレイナに尋ねる。
 
男子生徒「キミ、1年の頃にお忍びでうちの部活見てたよね?」

レイナ「…あ、もしかして!」

男子生徒「やっぱり。今でも興味ある?」

レイナ「はい……。」

男子生徒「そっか。ウチは途中入部も大歓迎だから。これ、渡しとくね。また、時間空いたら見に来てよ。」

そう言って男子生徒はある部活のビラをレイナに差し出した。

レイナ「……はい!ありがとうございます!」

男子生徒「じゃ、またね。」

男子生徒はそれを言うとすぐに去っていく。

レイナ(あ、名前聞くの忘れた……)
 
○準備室
担任「ありがとう、西園。」

レイナ「先生!先に来られてたんですね。」

レイナ「いえいえ。私や夜のことを気遣って頂いてありがとうございます。」

担任「担任なんだから当たり前だよ。少しでもきっかけになれば。」

レイナ「ありがとうございます。」

担任「それにしても、向坂、変わった子だよね。」

レイナ「そう見えるかもしれないです。でも、良い子なんですよ!」
 
担任「……あの、さ。西園。」

レイナ「はい。」

担任とレイナの距離が近づく。

その瞬間。

パリン

夜が準備室の窓を割って入ってくる。
担任もレイナも目を丸くしている。

夜「女王様(クイーン)よ、馳せ参じた。」

レイナ「え、呼んでないけれど……」

夜「女王様(クイーン)よ!馳せ参じた!」

よりアップで。圧強め。

レイナ「あ、ありがとう。」

レイナ「でも、夜も先生から頼まれていたわよね?」

夜「あぁ。その依頼を終わらせたからこっちへ来た。」

レイナ「凄いわね、夜。」

レイナは心の底から感心した様子で拍手をする。
それを見た夜はキメ顔決めポーズをとる。

夜「フッ。騎士としては当然のことだ。」

夜は担任の方をじっと見つめる。そして何かを勘づいたように、不敵に笑った。

夜「レイナ。先に教室に戻っていてくれ。」

急な提案にレイナが首を傾げる。

夜「クッ!我が女王様(クイーン)よ。ここは俺に任せて先に行けっ!」

レイナ「え?うん。分かった。」
 
レイナ(夜、このセリフ、言いたかったんだろうなぁ。やっぱり憧れるセリフだもんね。一度は言ってみたいもんね。こうなった夜は止められない。用件も終わったし、夜のノリに付き合おう。)

そう考えたレイナはすぐにその場から退散する。

レイナ(先生、押し付けてごめんなさい!)

担任「え、ちょ……ええ。」

○教室
教室に1人で戻ってきたレイナは、辺りを見回し、ゆっくりと自分の席に座る。

教室に残っていた女子生徒達が恐る恐るレイナに近寄り、声をかけた。

クラスメイトの女子1「に、西園さん!」

レイナ「は、はい!」

思わぬ声がけに、レイナは緊張するしながらも返事をする。

クラスメイトの女子2「もし良ければこの後……」

その時、夜が何故か窓からレイナの前に飛んでくる。

それを見たクラスメイトは危機を察して2人から遠ざかる。

夜「待たせたな、女王様(レイナ)!」

レイナ「夜。先生との話は済んだの?」

夜「ああ。秘技、静壊(サイレント・デストラクション)を繰り出し、極めてすぐに、穏便に済んだ。やはり、俺は騎士中の騎士(ナイト)であるわけだ。」

レイナはただただ、首を傾げるだけだった。


○翌朝のホームルーム
チャイムの後、担任の杉野ではなく副担任(50代後半のおじいちゃん先生)が入ってくる。

副担任「えぇっと、杉野先生が退職されたので、このクラスの担任を佐分(さぶ)が担当します。」

ざわつき始める教室。
それは当たり前だ。新クラスが始まって1日で担任がいなくなったのだから。

レイナは恐る恐る夜の方を見る。

レイナ「先生に何かした?」

夜「……ふ、封印が。」

夜は冷や汗を垂らしながら、瞳孔をゆらゆらとさせている。

長い付き合いだから、レイナにははっきりと分かる。

コイツが何かやらかしたのだと。