それは、2006年の春だった
世紀末、特に滅びもしなくて、
ただ人間たちが、遊び疲れていた頃

「きれいだね。君何歳?」
「26歳。日本語お上手ですね。」
「真実とは、何だと思う?」
「さあ…」
「あははは、真実って、さあじゃないんだよね。分かる?」
「うーん」
「真実って言うのは、まあ言っちゃ目に見えないモノだね」
「目に?」
「そう例えば音楽」
? 男は続けた
「音楽っていうのは、目に見えない。音だから。だから真実」
「音楽っていうのは別にして、音が真実っていうのは、ちょっとおかしいと思う」
「ん?」
「だってオ◯ムだって、音でマインドコントロールしたりするでしょう? あれも真実だったら違うと思う」
「はあーなるほどな。しかし、言って見れば真実を諧謔(かいぎゃく)ととらえ…」
「かいぎゃく? 何ですかそれ?」
「ユーモアだな」
「オ◯ムはユーモアなんかじゃありません。立派な犯罪者集団です。」
「逆に立派。ときたか!」
「逆に立派…そこじゃありません。オ◯ムを犯罪者と捉えられないとしたら、何か問題が隠れているのかも」
「ぷふー可笑しいな。お前は」
「こう言ってはなんだけど…私、実家が山梨に有るので、逆にオ◯ムの問題には詳しいですよ。麻原はテロを犯した。よって立派な犯罪です」
「あははは、麻原はテロを犯した! よって立派な犯罪どえす」
ドエス…と思った
「ど、どすえ?」
思わず言ってしまった。
「ああ京都な」
「京都かも知れませんけど」
「じゃあな、例えばお前が京都だとして」
「私ですか? 顔ですか? 私の顔がそんなに京都っぽいですか?」
「あひゃひゃひゃ」
「あなたこそ、笑い方が京都っぽいですよ」
「さすがだな。お前、京都に男居るだろ」
「男? 何です? 男? っていうか私、彼氏が京都に住んで居るんです。」
「彼氏かあ。今更」
「今更って何です? ちょっと怒りますよ」
「あはははははは。傑作」
「傑作⁉︎ さっきも言いましたよねそれ。この世界で、それ、流行っているんですか⁉︎」
「この世界ね」
男は煙草に火を付けた。
「お前も吸う?」
「いいです。要らないです。」
「まあ例えばだな、それと俺の言う事を聞け。俺とセックスしない?」
!!

人は、求めるものと、する事と
色々はき違う
誰かは人を求め、誰かは時間を求める
誰かは 体を求めてみたり
一体誰かは、真実を求めるのであろうか

真実…
「真実じゃ無いと思う」
思わず言った。言ってしまった
「ああそうかもな。だとしたら何だ?」
「意外と難しい問題ですね。」
「そうだろ?」
人類が滅亡しかけているとして、そこに一組の男性と女性が居たとして、真実とか現実とか、つべこべ言っている場合なのであろうか
「うーん」
私は考えてしまった
「では、お前の真実とやらになぞらえていうぞ。お前は俺が好きか?」
好き。か。たった今考える。考え始める
「嫌いでは無いです。でも、好きでも無いような」
「御都合主義だな」
「御都合主義…」
「いや、今のは気にしなくていい。間違えた。そうだなえっと」
「困らせましたか?」
「うーん確かにな。じゃあこうしよう。俺はお前の願いを一つ叶える、俺の出来る範囲でな。どう?」
「あなたはそんなに私とセックスしたいんですか?」
「まあ、な」
「ちょっと考えさせて下さい」
「ああいいよ」
私はしばらく考えた。何も望みが無い訳じゃ無い
「ちょっと」
「何だ?」
「本当に何でも?」
「ああ」
「じゃあ」
私は男の耳元に口を近付けて、小声で言った
「例の人身売買やめてもらえません?」
「はあ⁉︎ 参ったな。あれはあれで役に立つと思ってたんだけどな」
「約束は約束です。」
「仕方ないな。今回は。いいよ
ああしかしあれね。まあいいんだけど」
「やったあ」
「じゃあちょい待ち」
男は、すたすたと立ち去っていった
結局、私は、男の要求に応じる形になった。

どのぐらい長く眠っていただろう。また私は。
「あのーもしもし。前後関係分かる?」
「前後関係…余り有りませんけど。」
「前後関係無し! あなた天然ね」
「あなたみたいな方に、天然言われる」
!!
気絶してしまった。揮発性の臭い。もう何回目か分からない。

「ふふ
僕のお嬢さん
お目覚め?」
意味不明。
「痛い」
「ナニーが?」
「別に。別になんだけど」
「覚えています?」
「ぜんっぜん」
「はーい。それは良かったです。」
最悪と思った。本当の意味で
「ところで、この乱痴気パーティー。いつ出れるっつーか終わるっつーか」
「怒るのは、体にモッタイナーイ」
!!
絶対呪ってやる。そう決意して、また気絶した


お母さん お母さーん
どこからとも無く声が聞こえる。
だいぶ涼しい
一体、何日ぐらい経ったのだろう
うつら うつら
お母さん!
はっとした

私は後手(うしろで)に縛られていて、一体何処にいるのか分からない
何とかロープを外すと
仕方無く歩いた。

広い道路に出ると 私は
たまたま通りかかったトラックの運転手に今の事情を説明して
近くの駅まで送り届けてもらう事になった
「姉ちゃん、どうしたん?」
「…いえ」
「まあいいや」
「ここ東京ですか?」
「ああそうやけど。あれ、姉ちゃんひょっとして記憶喪失(苦笑)とか」
記憶…
そうかも知れない。元々物覚えの良い方では無いとは思っていた。いや思っていた!?
思っていた私はどこへ?

「あいたたた」

「ん? どしたん?」
「いや、頭が痛いです。」
「そっか。家はどこ?」
「今東京だとすると、八王子が近いです。」
「わーった。おじさん、いつもより遠回りしちゃう。そんで、八王子インターじゃダメかな」
「あっ大丈夫と思います。タクシー拾うか、またヒッチハイク。」
「所持金ナンボ?」
「ええっと一万円」
「じゃあ駅まで大丈夫ね。」
「はい」
「あっこれ、おじさんの眠気防止料よ」
そう言って、かたわらのミネラルウォーターを、ほいと渡してくれた
「じゃあね。バイバイね。」
「ありがとうございます」
私は、ぺこんとお辞儀をして別れた。

その夜も、次の夜も
眠れ無かった
全部の夜は
繋がって
いる