推しが尊い

その後の意識は朦朧だった。
どうやらお店の方は蓮君のお願いで開店前に時間を空けてくれたらしい。
そのお店の中で買いたいものが沢山あるはずだったのに、生の推しにもう思考がパンクしてしまった。
「みこちゃん、これお揃いにしない?」
「オソロイ‥?」
何とか理解しようと蓮君の言葉を頭で連呼する。
(オソロイ、オソろい、おそろい、お揃い?!)
「いやいやいや!」
「え?嫌だった?」
「嫌ではないですけど、恐れ多いと言うか‥」
推しと持ち物お揃いなんて、なんのイベントだ。
多くのファンたちが憧れてならないイベントに自分だけちゃっかり乗っかるなんてそんなことあってはいけない。
「って!もう、カゴに入れてる‥」
「ほら、次見に行こ?」
「くっ!」
キュン死しないように胸の辺りを抑える。そうこうしてる間に気づけば手を取られ引っ張られるままに店内を巡る。
「かわいい‥」
次のコーナーはぬいぐるみコーナーで思わず声が出てしまった。
いけないいけない。そろそろちゃんとしないと。
すると、蓮君は一つのぬいぐるみを手に顔の前に持って来てこちらに語りかけた。
「可愛いお姉さん、僕をお迎えしてくれると嬉しいな」
(あ、これはダメだ)
思わずその場に膝をついて手を組んで神と推しに感謝する。もう、この人生に悔いはないかもしれない。
「何してるの?」
「お祈りを‥いえ、すみません。それ、買います」
ぬいぐるみを受け取ると、「フッ」と言って蓮君は笑い出した。
「あはは!」
「え?あ、あの?」
お腹を抱えて笑うものだから何かしてしまったかとぬいぐるみを持ったまま、何をとち狂ったか顔の前まで持って来て話しかける。
「あ、あまり、笑われると照れちゃいます」
(な、何してるんだ!!)
これが、美少女と蓮君だったらそれは微笑ましい光景だろうが、もはや推しに沼ってるオタクがやっても微妙な空気になるに決まってる。
恐る恐る、ぬいぐるみを挟んで見れば蓮君は顔を真っ赤にしてしていた。
初めてみる顔。
それに、胸がトクンと音を立てた。
(そんなの、そんなの‥ずるいじゃん‥)
同時に自分の顔も体温が高まっていくのを感じて、思わずぬいぐるみの後ろに顔を隠した。