「お兄ちゃん、本物のかけるんいる……カッコイイ」

 五月末の午後。なぜか僕は妹の風花を連れて永瀬翔のイベントが開催されている本屋に来ていた。受付で写真集の購入証明を提示して整理券をもらい、順番を待つために列の後ろの方に並んでいた。

『永瀬翔 ファースト写真集『KAKERU~アオハルの日々』発売記念イベント』

 空色を背景に濃いピンク色の文字でそう書かれた紙が壁の上の方に貼られている。下には写真集が置かれたテーブルがあり、その横に半袖空色シャツと白いパンツコーディネートの爽やかな永瀬翔が立っていた。これから僕たちは永瀬から写真集を受け取り、さらにツーショットチェキを撮らなければならないのだ。全体の風景を眺めながら深いため息をつく。

 本来であれば、最近一人暮らしを始めた二十三歳の姉、沙菜(さな)が風花への誕生日プレゼントとして、一緒にイベントに行く約束をしていたらしい。だけど沙菜は仕事の都合でどうしても行けなくなり。風花ひとりでは行けないから、僕が手配して抽選に参加することになったのだ。そしてふたり分、見事に当選してしまったのだった。風花は朝からテンションが高く、一番のお気に入りである白地にひまわり柄が入っているワンピースを着ると、家の中で歌いながら踊っていた。

 それにしてもなぜ僕まで永瀬翔とツーショットチェキを撮る羽目になってしまったのか……自分の分は申し込まずに、ただ付き添えば良かったのか? と気がついたのはついさっき。

――あぁ、もう少しで僕たちの順番が来てしまう。