「俺が全部買って料理もするから、今日は任せて。そして余ったのは持って帰って、妹たちにあげて」

 その言葉に僕はすんと黙った。何でもかんでも風花たちと結びつけようとして。風花に関わると全て納得してしまう自分もどうかしている。

普段うちでは滅多に買わない高級な食材、お菓子。金銭感覚が僕とは違う永瀬は、値段を見ずにどんどんカートのカゴに入れていく。僕は横目で暗算しながら眺めていた。

「よし、こんなところか」
「永瀬は、計算しながらカゴに入れてるの?」
「軽く。あんまり値段は気にしないかな」
「うわっ、お金持ちの発言……」

 つい言葉に出してしまった。

「うわって、ひどいな」と言いながら永瀬は笑う。

「……永瀬は怒ったりしないの?」
「突然どうしてそんな質問するの?」と、牛乳をカゴに入れた永瀬の動きが止まる。

「いや、僕、いつも嫌な言葉ばかり永瀬に言ってるのに。今もこうやって……でも笑ってるからさ」
「怒って、嫌われるのが怖いから。だから怒らないよ」

 再び永瀬は笑った。それからレジに向かった。

 絶対永瀬には闇のような裏があると思っていたが、想像とは正反対の裏だった。

――嫌われるのが怖い。

 永瀬の言葉が頭から消えなくなる。

それは僕に対してだけなのか、世間に対してなのか。今までひどいことをどれだけ言ってしまった? 本当は怒りたかったのか?