「なんでこいつの車なんて乗らないといけないんだよ」
「お兄ちゃん、その言い方やだ。こいつって言わないで! 」
「ごめん」

 僕たちの会話を聞いて永瀬はふふっと声を出して笑った。

「笑うなよ」
「あっ、ごめん」

 さっきまで永瀬に対して緊張して接していた風花。だけどすぐにいつも通りな様子になって永瀬とずっとふたりで楽しそうに話をしていた。

 僕は後ろで複雑な兄の気持ちになりながらふたりを静かに眺めていた。

 揺れが心地よくてうたた寝していると「着いた」と運転席から聞こえてきた。外を覗くと……永瀬の家? というかひと言も家まで送るよなんて言われてないし、家の場所も教えていなかったな。ここから自分の家まで帰れということか。

「結局バスに乗ることになるじゃん」
「帰り送るから、とりあえず入って? 風花ちゃんに美味しいお菓子あげる」
「やった!」

 車を降り、前を歩く永瀬と風花を見つめていると、僕の横に運転していた人が来た。永瀬に似ているなと顔を眺めていると「弟の家に入れて良かったな。ファンなんでしょ?」と言ってきた。 

「ファンなんかじゃないし……というか、永瀬翔の兄!?」
「そうだよ。うちの両親は海外にいて滅多に帰ってこないから、翔にとっては親代わりでもある、多分。そして本業の合間にフリーな翔の営業もしてるし、マネージャーでもある」

 兄だと思えば、確かに兄だ。すらっとしていて永瀬の引けを取らないくらいにカッコイイ。年齢は姉と同じぐらいか? 風花と永瀬の兄は先に中へ入ると「お菓子はこっちだよ」とふたりでキッチンへ行った。ふたりの声は遠のく。

――何故そんなにも親しくない永瀬の家に二度も入ることになるのか。