あの日の第二ボタン

「卒業生、入場。」

司会の教師が厳かな声で告げる。
優人は紅白幕で囲まれた体育館の中、胸を張って歩く。

卒業式を終えた優人は高校での三年間を振り返ってみた。
高校三年間は儚くも終わってしまった。

優人はトイレに駆け込み、制服の第二ボタンを引きちぎった。

「本当にあげたい人に届かないなら、誰にも渡したくない……」

優人は握りしめた第二ボタンを便器に投げ入れ、水に流してしまった。


ピロンと通知音がした。
優人はスマホを見ると、ランスタグルムで七海からメッセージが届いていた。

「明日、高校の卒業式でしょ〜?卒業おめでとう!」

「ありがとう!高校三年間はあっというまだったよ、、、」

「あ、そういえば、ひろとくんって第二ボタン誰かにあげるの〜?」

「え、いや、、、特に誰にもあげる予定ないけど、なんで?」

「中学卒業の時さ、友達でひろとくんのボタンも貰おうとしたけど、先越されてめっちゃショック受けてた子知ってるんだよね、、、だからさ、安売りしちゃダメだよって伝えとく〜」

優人は、自分のしたことである人が心に傷を負ってしまったと知って心がギュッと締め付けられた。
そして、その人が一体誰なのかは薄々勘付いていた。


一年生の女子生徒が優人の元へ駆け寄ってきた。
階段の影には数人の影が見えていた。

「宮田先輩!第二ボタン、ください!」

そう言った生徒は優人の制服を見て言葉を失う。

「……ごめんね。もう前からあげる人、決まっちゃってたんだ……」

優人は優しく語りかけると踵を返した。


「ゆいちゃん、見て!先輩から第二ボタン貰えた!」

クラスメイトが満面の笑みで悠依の元へ駆け寄り、手に握った第二ボタンを悠依に見せる。

「よかったじゃん!」

悠依は明るく返すが心の中がざわつく。
視界が滲み始め、居ても立っても居られず教室を飛び出す。

「……私も、あの時……」

優人と咲が笑い合い、優人が第二ボタンを咲の手に渡す光景が蘇る。

「今さら、思い出しても仕方ないのに……もう、終わったことなのに……」

涙が溢れて止まらなかった。

「泣いてばっかじゃダメだ……」

悠依は乱暴に目元を拭った。

「強くならないと。もう、全部忘れよう……!」

悠依は心に決めた。